第29話 ……君、天才?

「まあ、『鬼殺おにごろし』にこだわるなら、『新鬼殺しんおにごろし』とか、『鬼殺おにごろかい飛車びしゃ』とか、いろいろありますけど……」


「な、何それ!? すごくかっこいい」


 僕の言葉を聞いた途端、死神さんの目がキラキラと輝き出します。


 そう。死神さんが好きな『鬼殺し』には、他にも種類があるのです。といっても、僕もそこまで詳しく知っているわけではないのですが。


「今度、それが載ってる本探してみますね」


「やった! ありがとう!」


 両手を上げて喜ぶ死神さん。おもちゃを買ってあげると言われた子供って、こんな感じなんじゃないでしょうか。


 そんなことを考えていると、死神さんが、「ふわー」と大きなあくびをしました。時計はもう十一時を指し示しています。


「そろそろ寝ましょうか」


「そうだね」


 そう言って、死神さんは、テーブルを部屋の端に寄せました。そして、手を床に向けてまっすぐに伸ばします。死神さんの手の先。そこに光の粒が集まり、大きな長方形を形成していきます。あっという間に、一人用の布団が姿を現しました。


「それ、やっぱり便利ですよね。自分の所有物を手元に移動させる力でしたっけ?」


 死神さんと初めて会った時にも見た力。全ての所有物を移動させられるのか。所有物とはどの程度までのものを指すのか。はっきりしないところは多々あります。ですが、そこをはっきりさせようなんて思いません。だって、僕はただの人間。死神ではないのですから。


「そうそう。死神業はいろいろと入り用だからね。こういう力が必要になるときもあるんだよ。まあ、一日に何度も使える力じゃないから、私はいざって時にしか使わないけどね」


「……あれ? そもそも、毎晩その力を使って布団を出さなくても、そこの押し入れに布団を入れておけばいいだけなんじゃ……。回数制限があるなら、なおさら」


「…………」


「…………」


「……君、天才?」

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