第30話 ……寝れない
「そうだ! 一つ提案があるんだけど」
電気を消した直後、死神さんの声が部屋の中に響きました。まだ目が暗闇に慣れていないせいで死神さんの表情はよく見えません。ですが、何となく笑っているような気がします。
「提案……ですか?」
「そうそう。たまには、寝る場所交代しない?」
「……へ?」
普段は、僕がベッドで、死神さんが床に敷いた布団で寝ることになっています。それを交代するということは、僕が、死神さんが普段使っている布団で寝るというわけで……。
「い、いや、急に何言ってるんですか!? だめですよ!」
「えー。たまにはいいじゃん」
「よ、よくないです!」
僕は、ベッドに寝転がり、掛け布団を頭からかぶりました。寝てしまえば、こちらのものです。いくら死神さんといえども、諦めるに違いありません。
…………
…………
ギシギシ。モゾモゾ。
「……死神さん」
「……何かな?」
「どうして潜り込んでくるんですか!」
掛け布団を跳ね飛ばしながら、僕は体を起こします。僕の目の前には、ベッドで横になる死神さんの姿がありました。
「だって、君のベッドで寝たかったし……」
「何でそこまで……」
「今日はそういう気分だからね!」
「……ええ」
暗闇に慣れてきた僕の目には、死神さんの顔が先ほどよりもはっきりと映ります。冗談を言っているようには見えません。気持ちいいくらいのドヤ顔です。
いつもいつもマイペースすぎでは……。
結局、僕たちは、お互いに寝る場所を交代することとなりました。
「えへへ」
「……どうしたんですか?」
「君の匂いがする。……えへへ」
「は、恥ずかしいこと言わないでください」
「ごめん、ごめん。じゃあ、おやすみ」
そう言って、死神さんは、あっという間に眠ってしまいました。実は、仕事でかなり疲れていたのかもしれません。死神さんが、「スー、スー」というかわいらしい寝息をたてる度に、掛け布団が上下に小さく動きます。
……こっちの気も知らないで。
仕方なく、僕は死神さんの布団に横になりました。死神さんの、花のように甘い香りが、僕の全身を包み込みます。それは、まるで、死神さんに抱きしめられているかのようで。僕の頭の中には、死神さんに初めて抱きしめられたあの日の映像が浮かんでいました。
…………
…………
「……寝れない」
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