第27話 心頭滅却

「ごちそうさまー。じゃあ、私、先にシャワー浴びてくるねー」


 そう言って、死神さんはお風呂場へ行ってしまいました。


 僕は、テーブルにあるお皿をまとめてキッチンへ。そのまま、お皿洗いを始めます。


 実は、僕にとって、この時間が少々苦痛なのです。お風呂場は、キッチンの向かい側。二つの場所の距離はほとんど離れていません。一人暮らし用六畳一間のアパートですからね。


 つまり、シャワーの水音や死神さんの鼻歌がばっちり聞こえてくるわけで……。


「心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却……」


 ブツブツと呟きながら、スポンジを使ってお皿を力強くこすります。自分のすぐ後ろで、綺麗な女性がシャワーを浴びている。一般的な男子高校生である僕にとって、いろいろな意味できつい状況です。同棲開始から二週間経った今でも、これだけは慣れることがありません。


 それでもなんとかお皿洗いを終え、急いで部屋の方へ。部屋とお風呂場との間にある扉を閉めると、お風呂場からの音がほとんど聞こえなくなりました。


「はー」


 長い大きなため息が、部屋の中に響きます。ベッドに腰かけると、体から力が少しずつ抜けていきました。


「いい加減、慣れないと。……さて、将棋の準備しておこう」


 毎晩恒例となっている僕と死神さんとの将棋。これをしないと、死神さんは僕を寝かせてくれないのです。


 僕は、体に力を入れ直し、ゆっくりと立ち上がりました。

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