第25話 将棋しよっか!

「…………同棲しても大丈夫ってこと?」


 死神さんは、少しだけ首を傾げながらそう尋ねます。


 僕は、何も言わず、大きくゆっくりと頷きました。


「……そっか。……そっか!」


 一度目は、自分に言い聞かせるように。二度目は、喜びを全身で表現するように。死神さんの顔には、百点満点、いや、百二十点満点の笑顔が浮かんでいました。


「よーし。じゃあ、いろいろ決まったところで……将棋しよっか!」


「……はい?」


 ここはもう少し感慨に浸るところでは……?


 そんな僕の考えなどつゆ知らず。死神さんは、食べかけのサンドイッチを口の中に放り込み、いそいそとテーブルの端に置いてあった将棋盤を中央に移動させます。そして、駒袋を開き、中の駒を盤上に勢いよく出しました。カラカラという駒と盤のぶつかる心地よい音が、部屋の中に響きます。


「さ、やろう、やろう。あ、でも、手加減はだめだからね。手加減した君に勝っても、何の意味もないんだから。もし、手加減してるって分かったら……フフフフフ」


「……ヒエエ」


 僕の背中に悪寒が走ります。一体僕は何をされてしまうのでしょうか。とりあえず、手加減をすることだけはやめておきましょう。


「ねえ、君」


「……何ですか?」


 死神さんは、こう告げました。最高に綺麗で無邪気な笑顔とともに。


「楽しい将棋、しようね!」

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