第24話 もう少しだけ

「僕、まだ自殺したい気持ちは残ってるんです」


 それは、至極当然のことでした。たった一日やそこらで、この気持ちが変わるなんてありえません。この気持ちは、僕が長い間抱えてきた苦しみから生まれたものなのですから。


 キュッと唇を噛む死神さん。僕を見つめていた赤い瞳が、目蓋の裏側に隠れてしまいます。死神さんは、何かを覚悟したように見えました。マイペース、負けず嫌い、自分勝手。そんな死神さんにも、恐らくはあるのでしょう。自分の決断が否定されてしまうのではないかという恐怖が。


「でも……」


 僕は、死神さんに向かって自分の思いをぶつけます。それは、死神さんへの感謝であり……


「昨日、もう少しだけ生きてもいいかなって思いました」


 生きる意志でもありました。


 僕の言葉に、死神さんは目をパチパチと瞬かせます。そして、次の瞬間、その目は大きく見開かれました。それに呼応するように、口角が吊り上がります。


「もう少しだけ生きて、死神さんと将棋して。それから先は……僕にもよく分かってないです。もしかしたら、また、自殺したくなるくらい苦しむことがあるかもしれません」


 体温が徐々に高まり、心臓はドキドキと早鐘を打っています。口の中はもうカラカラです。それでも僕の口は、言葉を届け続けるのです。目の前にいる、将棋好きのヘンテコな死神に。


「だから、死神さんには…………傍にいてほしいと思ってます。見守っていてほしいと思ってます。僕が、苦しみを乗り越えられるように」

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