第21話 ……ちょっと、死にたくなりまして
「……えっと」
状況を整理しましょう。そう、こういう時こそ、冷静に。冷静になるのが一番です。
僕の体は、ベッドの上で横向きになっています。いつもなら、部屋の中央に置いてあるこたつテーブルや、壁側にある押し入れの扉が視界に入るはずです。ですが、今、僕の目にそれらは映っていません。
では、何が映っているのでしょうか。それは、真っ黒なローブを身にまとい、長い白銀色の髪をタラリと垂らして、僕の横でスヤスヤと眠る死神さんの姿。
「う、うわああああああ」
全く冷静でいられなかった僕なのでした。
「んー。もう朝―?」
ベッドの方から、死神さんのトロンとした声が聞こえます。ですが、部屋の隅で壁側を向いて体育座りをしている僕に、その顔は見えません。
「お、おはようございます。死神さん」
「おはよー。……君、どうしてそんな所で体育座りなんかしてるの?」
「……ちょっと、死にたくなりまして」
沈んだ声でそう告げる僕。まさか、抱きしめられたまま泣き疲れて寝落ちしてしまうなんて。穴があったら入りたいとはこのことですね。
その時、僕の耳に、死神さんのクスクスという笑い声が聞こえました。
「ど、どうして笑うんですか」
思わず尋ねます。今のどこに笑う要素があったのでしょうか。
僕の質問に、死神さんは優しい口調で答えます。相変わらず、その顔は見えません。ですが、おそらく、優しく微笑んでいたのではないでしょうか。そんな気がするのです。
「だって、『死にたくなった』っていうのは、生きる意志がある人の言葉だから」
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