第18話 だから、私決めたの
「……何で……ですか」
震える唇。震える声。僕は、死神さんの方にゆっくりと体を戻します。その時、僕の座るベッドが、ギシリと鈍い音をたてました。
「前にも言ったよね。勝ち逃げなんて、絶対にさせないよって」
死んだ後、すぐに魂が回収されなければ、魂は再び肉体へと戻り、死んだ事実をなかったことにしてしまう。魂と将棋をすることはできなくても、魂が宿った肉体、すなわち、生きた人間とは将棋をすることができる。
死神さんは、僕を生かし続け、自分が勝つまでひたすら将棋に付き合わせようとしているのです。
僕は、思わず大声で叫び出しそうになりました。死神さんの主張が全く変わっていないこと、そして、僕を苦しめ続けようとしていることに、激しい怒りを覚えたためです。
ですが、そんな僕を制するかのように、死神さんは「でもね」と言葉を発しました。
「君が苦しんだままなのは、嫌。だって、そんな状態じゃ、楽しい将棋ができないから」
「……え?」
楽しい将棋。それは、死神さんが僕との将棋に求めていたものであり、僕が死神さんとの将棋に感じていたものでもありました。
「だから、私決めたの」
部屋の中には、死神さんの声だけが響きます。僕は、死神さんから目を離すことができませんでした。
「私、君の大切な人になろうと思う」
死神さんは、微笑みます。それは、とてもとてもやさしい微笑みでした。
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