第17話 今なら頭なでなでも追加するけど……

「死神さん!?」


 僕は、ベッドからはね起きました。


 真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。それら目に映るものすべてが、死神さんがこの場にいることを主張しているようでした。


「そうだよ。君の愛しの死神さんだよ」


 そう言いながら、死神さんは手を左右に大きく広げます。


「……何ですか、それ?」


「抱きしめてあげようと思って」


「け、結構です!」


 突然何を言い出すんでしょうかこの人は。僕は別に、抱きしめてほしいわけじゃ……。


「今なら頭なでなでも追加するけど……」


「…………け、結構ですから」


「今、ちょっと考えたね」


「き、気のせいです」


 顔の温度が急激に上昇するのが分かります。僕は、赤くなっているであろう顔を死神さんに見られないように、クルリと体を後ろに向けました。いくつものシミが目立つ壁が、僕の目の前に広がります。


「……それで、死神さんが戻って来たってことは、結局、僕は自殺してもいいんですよね? ちゃんと死ねますよね? 楽に、なれますよね?」


 僕は、眼前の壁に向かって小さく叫びました。もしかしたら、壁の向こうの部屋には、僕の叫び声が聞こえているかもしれません。「うるさいなあ」なんて思われているかもしれません。ですが、そんなことに気を回す余裕なんて僕にはありませんでした。


「そのこと、なんだけどね……」


 死神さんは、ゆっくりと言葉を紡ぎます。今、死神さんはどんな表情をしているのでしょう。困った表情でしょうか。暗い表情でしょうか。それとも、優しい表情でしょうか。


「……やっぱり、君の魂は回収しないことにしたよ」


 それは、僕が死ねないことを意味する言葉でした。

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