第15話 ……また将棋したいな

 死神さんのいなくなった部屋は、とても寂しく感じられました。


「突然背後に現れて、目の前にいたと思ったら突然いなくなって。死神というより、幽霊に近いような……」


 寂しさをごまかすために、そんなことを呟く僕。ですが、全くの無駄でした。しんと静まり返る室内に、僕の言葉が溶けていくだけ。


 あれから、死神さんは、「バイバイ」と僕に手を振った後、忽然と姿を消してしまったのです。まるで、最初からそこには何もなかったかのように。まあ、突然何の気配もなく背後に現れることのできる死神さんのことですから、特に驚くということはありませんでした。


「あ……」


 僕の目に、ふとあるものが映りました。それは、先ほどまで僕たちが使用していた将棋盤と駒、そして、駒袋。


 僕は、対局中に死神さんが座っていた所へ腰を下ろしました。盤上の駒を一枚一枚丁寧に駒袋の中に入れていきます。盤上から駒を拾うたびに、自分が、死神という得体の知れないものと将棋をしていたことを強く実感しました。


「……また将棋したいな」


 思わず、僕の口からそんな言葉が漏れました。


 死神さんとの将棋。結果は、僕の大勝。これまでの将棋人生の中で、大勝の将棋なんて何度も経験してきました。ですが、どうしてでしょうか。死神さんと指した将棋をこんなにも楽しかったと思ってしまうのは。死神さんの逆転を狙う真剣な眼差しが脳裏にこびりついているのは。


 その答えが見つけられないまま、僕は駒を全て片付け終えたのでした。

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