第14話 な、なな、何言ってるんですか!

「じゃあね。絶対にまた戻ってくるから」


 死神さんは、そう言って立ち上がりました。


「……なるべく早く戻ってきてくださいよ」


 僕の口から出たのは、とても弱々しい声。死神さんがいなければ、僕は死ぬことができないのです。死神さんには、一日でも早く戻ってきてもらう必要がありました。


「……君の今の言葉、お母さんの帰りを待つ子供みたいだね」


「な!」


「いや、外見上の年齢はそんなに変わらないし、彼女の帰りを待つ彼氏の方がいいかな?」


「な、なな、何言ってるんですか!」


 去り際に、なんてことを言い出すのでしょうか。死神さんの言葉に反応するように、僕の顔の温度が急激に上昇していきます。


 そういえば、死神さんの本当の年齢って……いや、聞くのはやめましょう。ややこしいことになりそう。


「さて、恥ずかしがってる彼氏君に一つ。この将棋盤と駒、捨てないでね。」


 対局後そのままになっている将棋盤と駒を指さす死神さん。その顔には、ニヤニヤとした笑みが浮かんでいます。


「……分かりました。でも、僕、別に恥ずかしがってませんから」


 そこはしっかりと否定しておかねばなりません。いや、本当に。彼氏と言われただけで恥ずかしがるなんて、そんな馬鹿な話あるわけ……。


「……『彼氏君』の方は否定しないんだ」


「……あ。ち、ちが……。えっと……」


 臨界点まで達したかと感じるほどの顔の温度。必死に否定しようとしたのですが、どういうわけか言葉が上手く出てきません。


 死神さんは、そんな僕を見て、クスクスと笑っていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る