第13話 ……ねえ、少しだけ、待っててくれない?
「……知ってるよ」
僕の叫びが途切れてしばらくした後。死神さんは、穏やかな口調でそう告げました。死神さんの綺麗な赤い瞳が、まっすぐに僕を見つめています。
「……知ってるって、何をですか?」
「君が経験してきたこと。私、全部知ってる」
「……死神手帳に書かれてたからですか?」
対局前、死神さんは言っていました。死神手帳には、これから死ぬ人のこれまでの経験などが自動的に書かれるのだと。そこになら、きっとあるのでしょうね。僕が経験してきた、思い出すのも嫌になる出来事の数々が。
死神さんは、僕の質問にコクリと頷きました。
「でも、君の気持ちだけは知らなかった。死神手帳には、経験は書かれても気持ちまでは書かれないから」
そう言って優しく微笑む死神さん。
その瞬間。僕の心臓が、ドキッと大きく跳ねるのが分かりました。思わず左手を胸に押しやる僕。手を通して伝わるのは、ドッドッドッといういつもより速い心臓の鼓動。
「……ねえ、少しだけ、待っててくれない?」
「……え?」
「自殺、まだしないで。私、やりたいことができたから。大丈夫。三日後くらいには戻ってくるよ」
突然告げられた死神さんからのお願い。僕の頭上に巨大な?マークが浮かび上がります。
「あの……やりたいことって?」
「それはまだ秘密。上手くいくかどうかも分からないしね」
上手くいくかどうかも分からない。つまり、死神さんは、難しい何かに挑戦しようとしているということです。一体何を……。
「……ちなみに、死神さんがどこかへ行っている間に、僕が自殺したらどうなるんですか?」
「一応、今は、君の魂の回収役は私ってことになってるから、魂の回収ができなくて、結局助かっちゃう。さっきも言ったけど、死んだ人の魂は、すぐに回収しないとまた元の体に戻って死んだ事実をなかったことにしちゃうの。でも、自殺した時の苦しみは残る。要するに、君は死ねずにただ苦しむだけってことだね。そんなの、嫌でしょ。だから、自殺しようとしちゃだめ」
「何ですか、それ」
死のうとしても死ねず、ただ苦しみだけが残る。その事実を前に、僕は頭が痛くなりました。
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