第11話 泣いてないから

「負け……ました。ううう……」


「ありがとうございました」


 結局、あの後、死神さんはほとんど何もできずに終わってしまいました。結果は僕の大勝。盤面上。僕の陣地には、全く手が付けられていません。ですが、死神さんの陣地は、ボロボロに崩壊してしまっています。将棋を知らない人でも、この盤面を見れば、「うわっ」と思わず声が出てしまうのではないでしょうか。


「さて、死神さん。約束は果たしました。これでいいですよね」


「…………」


「僕、今から自殺しますから。僕が死んだら、魂の方はよろしくお願いします」


「……いやだ」


 死神さんの言葉に、僕は耳を疑いました。


「えっと……どういうことですか?」


「……勝ち逃げなんて……グスッ……絶対に……グスッ……させないから」


 いつの間にか、死神さんの目に溜まっていた大粒の涙。それが、死神さんの頬をゆっくりと流れていきます。ローブの袖でグシグシと涙を拭う姿は、まるで小さな子供のよう。


「ちょ、な、泣かないでください。えっと、ティッシュは……」


 僕は、部屋の隅に置いてあったティッシュの箱を取り、死神さんに手渡します。それを受け取った死神さんは、箱の中からティッシュを一枚取り、チーンと鼻をかみました。


「……ありがと。でも……グスッ……泣いてないから」


「いや、それはさすがに無理があります。ああ、もう。まだ鼻水が出てるじゃないですか。ティッシュ、もっと使ってください。えっと、ゴミ箱を……」


 どうやら、死神さんはひどく負けず嫌いのようでした。

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