第6話 ふふふ、すごいでしょう

「さてと。じゃあ、詳しく説明するよ。まず、この死神手帳によると……」


 そう言いながら、死神さんは、ローブの胸ポケットから一冊の手帳を取り出しました。その手帳には、とてもかわいらしい文字で『死神手帳』と書いてあります。ついでに、柴犬のシールがわんさか貼ってありました。


「……死神さんって、柴犬好きなんですか?」


 僕が尋ねると、死神さんの目がキラキラと輝き始めました。


「そう! そうなんだよ! 柴犬ってすごく可愛いよね! 君もそう思うでしょ?」


「はあ……。まあ、可愛いとは思いますけど……」


「むむむ。反応が薄い。じゃあ、もう君にはこの手帳見せてあげない」


 不貞腐れた様子で死神手帳を胸ポケットにしまう死神さん。


「いや、僕、見たいなんて一言も言ってないんですが……」


 どうにも死神さんはマイペースすぎます。先ほどから調子が狂って仕方がありません。


「あの……将棋についての話は……」


「おっと、そうだった、そうだった」


 死神さんは、再び胸ポケットから死神手帳を取り出しました。ペラペラとページをめくる音が、部屋の中に優しく響きます。


「お。あった、あった。えっと、君は、中学時代に将棋の全国大会に出て準優勝してるよね。優勝は逃しちゃったけど、プロの人から『近年稀に見るいい将棋だった』って褒められたんだって?」


「……そんなことまで書いてるんですか」


「ふふふ、すごいでしょう」


 ドヤ顔を浮かべる死神さん。


 すごいのは死神さんではなくて、その死神手帳なんですけどね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る