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───


「尾形さん」


 被害者遺族としての心情意見陳述を行う為に、被害者参加弁護士の声に促され、尾形は立ち上がった。


 大きく息を吸い、顎を上げ真っ直ぐ前を見る。


「愛美は優しい子でした。まだ幼いのに妻を手伝う賢い子でした。父の日にクレヨンで描いてくれた似顔絵は私の一生の宝物です。子供とは不思議なものです。小さな身体に無防備で見るからにか弱い。そのか弱い存在が、私の腕の中で笑顔を向ける度に勇気と大きな力を与えられてきました。もっと一緒にいてやりたかった。愛美が結婚し、自分の手を離れていくまで、ずっと守っていこうと誓っていました。それなのに──」


 尾形は涙ぐみ声を詰まらせた。


『パパ……』


 愛美の声が聞こえた気がした。

 尾形は拳を握り締め、気持ちを奮い起たせた。


「女の子が汚い欲望の犠牲になる事は仕方がないんでしょうか?良くある事だから、目を離した親が悪いんだと世の中には心ない事を言う人間がいます。それなら全ての犯罪に言える事ですが、世の中には悪人がいる。用心していなかったから殺されて当然なんだと、そういう事なんでしょうか?この国は、加害者の人権ばかりで、幼い子供が犠牲になっても再犯を防ぐ為の対策を真剣に考えてはくれない。被害者の側にばかり責務を押し付け、刑務所に入れても、ほとぼりが覚めた頃に出所して悪事を繰り返す。園田は前科者ではないですか。何人もの女の子に傷を負わせた──気を付けろと言うが、そんな人間が近くにいると知らされていたら気を付けましたよ。何処に潜んでいるか分からない危険に怯えながら暮らしていけとでも?善良な人間は常に怯えて暮らし、誰かが犠牲になっても運が悪かったと、女の子だから仕方ないねと納得しろと?特に子供に対する性犯罪は再犯率が高いと聞きます。何故、そうしたデータがありながら野放しにするのか。罪を償い更正させる事が大事なのは頭では分かります。でも──遺族としたら、今!この手で絞め殺してやりたいというのが本当の気持ちです。

一人の人間を更正させる為に、一体被害者が何人必要なんでしょうか!愛美が殺されなければ、その男によって更に犠牲者が生まれていたでしょう。余りにも命を軽視していないでしょうか?人権、人権と叫ぶが、それは加害者の事ばかりだ!遺族や被害者には人権はないのか?愛美は未来を奪われ、此の世にはいないから、どうでもいいのか!法とは、人々の健全な暮らしと命を守る為のものではないのですか?それなのに、この国は真剣に国民を守ろうとはしてくれない」


 尾形は手元の紙を見ずに話し続けた。


「愛美が何を望むかずっと妻と一緒に考えてきました。夢の中で愛美が言っていました。愛美は……愛美は……お友達を助けてあげて……と。愛美は小さな体で命懸けで園田の暴挙を食い止めたんだ!お前はずっと檻から出て来る事は出来ない。例え死刑は免れても、二度と女の子を傷付ける事は出来ない。男の力は弱者を守る為のものであって弱者をいたぶる為のものじゃない!お前は社会の中で最も弱い者にその力を向けたクズだ!愛美のような小さな女の子が持つ優しさと勇気がお前にはないのか!愛美はお前にとって都合の良い人形じゃない。泣き叫んだから殺しただと?当たり前だろう!!人間なんだ!人間なんだ!血の通う人間なんだよ!! 」


 最後の方は絶叫していた。

 尾形は息を整え、勇気を振り絞って訴えた。


「──二度と愛美のように、幼い子が殺されるような悲劇があってはならない。一人の女の子の死が、この国を変える力となって欲しい。小さな女の子にも、この国を変える力があるんだ!愛美の死を無駄にしないよう私は遺志を継ぎ、他の子供達を守る法を成立させる為に訴えていくつもりです。このような悲劇が繰り返されない事、それが愛美の願いであり、私達遺族の願いです! 」




                 完

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人形を愛する国 春野わか @kumaneko1111

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