サバイバーズ・ギルト

ロロロロガガン

第1話

ーーそれは世界でありふれた話かもしれないし、そうでない所もあるかも知れない。


災害とは、突如やってきて、物も人も無作為に散らしていく。


ボクはそんな災害の被害者で、唯一の生き残り。新聞やニュース、掲示板ではいろんな呼ばれ方をされた。


奇跡の生還者! とか。

たった一人生き残った少年、とか。

なろ◯量産型主人公! とか。


どんな呼ばれ方でも別にボクに関係は無いので構わないが、兎も角ボクという人間はそう言う感じだ。



今も思う。


あの時は、ありふれたいつもの日常の筈だった。


ただ家にいたくなかったから。

外に出ていたかったから。

夜中に出歩くのが好きだったから。


そんな理由で家から少し離れて帰ってくると、そこにボクのいた村はなかった。


確かにど田舎、それも超が付くほどのど田舎、最早集落と呼んでも構わないほどなのだが、それが跡形もなく無くなっていた。


理由は分からない。


ただ、災害であると世間では報じられた。



「信じられない」



それが偽らざるボクの本心だ。


だって、、、散歩していた間に故郷ふるさとが無くなっているなんて、あり得ないじゃないか……。認めなく、ない……。




ーーーなんて、最初はそんな事や他の色んな事も考えていたが、いい加減疲れてしまった。


元々ボクはそこまで人の生き死に敏感ではないし、祖父が老衰で亡くなった時も涙の一つ流れやしなかった。


冷たい人間、なのかもしれない。


別に自虐ではない、これはただの自己評価だ。


こんな人間だから、家族や少ないが仲の良い友人、妹や弟のような存在のガキ達、あと村の人達。



「死んでしまって、可哀想だな」


取り敢えず黙祷を捧げはしたが、特段それで何が変わるという訳でも無い。


祈りで変わるぐらい簡単なら、世界はもっと混沌としている筈だから。



ま、そんな事は置いといて、ボクにとっては現在いま起きている問題の方が重要だ。


ずばり、遺産相続やボクの身元引受人問題である。


ボクは高校2年生、もう義務教育は無いので学校辞めて働くつもりだったのだが、遠く離れた親戚がボクを引き取ると言っている。


そんな人いたんだ〜、というぐらいで全く覚えていない人なのだが、とにかく書類上はボクの親戚らしい。


そして諸々の手続きやらなんやらが終わり、ボクは遂に解放、というかその親戚の『土田さん』という方の養子になった。


ボク以外に子供は居らず、さらに土田さんの奥さんは妊娠が出来ないような年齢に達しているらしい。


だから、子供が欲しかったそうだ。


それで親戚で、身請け出来る人がいないボクはその『都合の良い代替品』となった訳だ。


こんなヤンチャな年頃で、糞面倒なののどこがいいのか分からないが、まぁ、人から受けた恩は必ず返す性質タチだから孝行ぐらいは大人になって必ずしよう。


そう思った。



家族が変わって最初はギクシャクしていたが、段々と慣れ、2ヶ月程で「お父さん」「お母さん」と呼ぶのがスムーズになった。会話も至って普通だ。


やっぱりボクは切り替えるのが早い。


もうここが家だと、第二の故郷なのだと言えるほどには馴染んだ。


高校も、まぁ普通だ。


何かイジメが発生してたり、それを止めたらボクが不良扱いされたりもしたが普通だ。


至って平和である。


これはフラグだったのだろうか?


「うぉ! あそこ火事じゃね?」

「うわマジだww」

「とりまツキッター」

「えー俺は断然キンスタだわ、お前古ぅ〜」


声が聞こえた。


どうやら火事らしい。


火事を起こすなんて馬鹿だな、とは思わない。


どれだけ注意していてもロボットでもない限り事故のようなものは発生するのだ。


自分だけ特別とか、事故や事件とは無関係ですとか思っちゃいけないんだろう。


でもだからっていつでも死ぬ覚悟とか、事故に遭う事を想定するなんて人間には無理だ。


少し語ってしまったが、ボクが言いたいのはこれは仕方のないものである、そういう事が言いたいだけだ。


「おいちょっと君、押すなよ。危ないだろ? って、なんだ高校生か?」

「野次馬になりたいだけなら帰った方がいいよ」

「ったく! 俺たちは消防車が駆けつけるまで見守っときゃならないんだからな、お前ら高校生は変に邪魔とかすんじゃねぇーーーて、おい!! なにやっとんだお前!!」

「そっちは火事の現場だぞ!!」


ボクは火事が発生している民家、その2階に駆け込む。


人がいるとすればそこしかないからだ。


もし1階にいたら、既に逃げている筈だから。仮に逃げていなかったとしたら、運が無かったと諦めるか救助を待つか、それぐらいしか選択肢が取れないだろう。


火事が発生した2階に到着、煙が凄くて息が苦しい、そして火が熱くて呼吸をする度に喉が焼けそうになる。


……でも、来た甲斐はあった。


5歳ぐらいの男の子と、それより年下だろう女の子が倒れていた。


ここには台所などないので、子供だけで火遊びをしていて何かに燃え移って火事になった。この事件の真相はこんな所だろう。


ありふれた話だ。


誰もが一度はニュースで触れたことのあるような内容だろう。


そんなの一々気にすることはないだろうし、気にするならば気にすれば良い。


そして悼むならそうすれば良い、想う事は個人の自由だ。


でも、ボクはそんなの気にしないけどね。


だって現実感がない。


所詮は画面の中の出来事なんだから、遠く離れた場所なのだから、知りもしない赤の他人なのだから。


いつだって、ボクにとっての現実はそんなもんだ。


他の人のことは知らないけど、この考えももしかして結構冷めてるかな?


あんまりこういう事を聞いた事が無いので判断し辛いな。



ーーーさて、ここまでの意味のない思考時間、ボクは止まっていたのだろうか?


何も行動を起こさず、倒れた子供と危険なこの場所で?


「……よっ、こいしょ!」


答えは否だ。


ボクが意味のない言葉を考えていたのは、ただの痩せ我慢、もしくは他の事を考えて火による熱さから気を逸らしていただけだ。


「まだ、呼吸はあるな……。運が良いよ、お前らも両親も」


そう言葉を溢して、ここからさてどうするかと思考する。


ここは民家の2階、普通ならここから飛び降りてもいいんだが、この民家は普通よりもデカく、その分高さも結構なものだった。


下を見ると、今のボクで飛び降りるのは無理かもしれないと思うほど高い。


でもだからといって引き返すのは火があるから無理だし、他のルートはあるのかもしれないが無いかもしれない。


そんなリスク、博打は打てない。


『子供が助かるか助からない』かが問題なので、助からない確率が高い方は選べない。


ならばどうするか?


ボクは頭が良くない。


でも行動力や判断力は自分では高いと思っている。


ならば、どうすればいいのか?



ーーーボクの答えは、『ガキを抱えて2階から飛び降りる』だ。



「お、おい! 2階から人が出てきたぞ!!」「ありゃ死んでるだろ??」

「そんな事どうでも良いから、スマホで撮ってる奴は今すぐ辞めてなんか手伝え!」

「手伝えって、オッサン俺達何すりゃいいんスか?」

「ちっ! これだから若い者は!! 言われなきゃ分からんのか!?」

「あぁ? 若いってそんなのカンケーねぇだろうが!」


耳障りな、何人かが喧嘩しているような声が聞こえる。うるさい。


だがそんな耳障りな声に紛れて、消防車や救急車のサイレンも聞こえた気がした。


ならば取り敢えず、ボクは生きて飛び降りることが出来たのだろう。


ボクがクッションーーとは言えないぐらい硬いがーーになったおかげでガキも大丈夫だろう。


大丈夫だよな?


少し不安になったが、残念ながらボクの意識はさっきから朦朧としている。


酸素も足りない、脳に血がいっていない、身体中から痛みが走っている等。


多分、意識を落としても大丈夫だと判断し、ボクは身体中から鳴っていた警鐘に逆らわず、ゆっくりとそれに身を任せた。


これも、いつも通りだ。



あの後色々あったが、取り敢えず子供は無事らしい。何の怪我もないわけではないらしいが。


面倒だったのはそのガキ達の親だ。


何回も何回も見舞いに来たがったらしいが、ボクの方は軽症ではなかったため家族以外との面談は全て謝絶されていた。


だが本当に感謝していたのだろう。手紙を貰った。


ガキの親と、助けたガキ達からだ。


親の手紙はよくある形式に沿った書き方で感情が伝わりづらいが、ガキ達の方は『ありがとうお兄ちゃん』と汚い字で書かられていて、それにはボクも少し心を動かされた。


助けた甲斐があった、なんて思っちゃいないが、それでもボクのあの時の行動は間違いではなかった。


警察や消防の方達にはめちゃくちゃ注意されたが、その後「多分君が助けにいかなかったら手遅れになっていた」、という風なことを話すと一変して感謝されたからだ。


だからボクはまた誰かを救う事が出来たんだろう。


それが確認できただけでいい。


それだけで少し何かが軽くなった気がする。


退院出来れば、また何かボクに出来ることを探し、出来ることをやろう。


やる事は沢山ある。

助けを求める人は必ずいる。

正しいこと、悪いこと関係なく助けを求められれば助けになる。


そんな『善行』を積んで、積んで、積んで、満足したら会いに行くよ。














ーーー……待っててね、みんな。

                 








 

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