第107話 神罰の塔 

 僕はスタン侯爵様に結界の展開と街にいた魔物の殲滅、魔道具の回収を報告した。


「なるほど。であれば王都から兵を派遣すれば取り返すのは容易いな。万が一でも結界の外に出ればメルティアはこちらに来れず我が軍の安全が確保される。では、今日は休んだのち、メルティアに侵入し、聖女を奪還せよ」


「わかりました」



 侯爵様の部屋を辞した後、僕はロックドライブラリーに向かうことにする。

 マリー様が着いてきたいと言うので、ゲートを開いて3人でロックドライブラリーの60階に転移する。




「『永遠の回廊』への挑戦を希望する者か?」


「いいえ」


「そう。ならかかってきなさい」




 そして魔法剣で斬り裂いて、青色の珠を手に入れる。


「これがS級のボスなのか。恐ろしいほどの魔力を発していたが、クラウスの前だと形なしだな。しかしそれを上回るクラウスから魔力を感じないのはどうしてだ?」


「マリー様、それは魔力が外に漏れないようにしてMPの回復を早めているのです。通常は誰でも幾分か魔力が外へと漏れているものです。さっきの七曜の魔女もです。知性と精神が高いほど無意識に漏れる魔力も多くなります」


「そんなこと気にも留めたことがなかったが…… 宮廷魔術師に伝えると研究がさらに進歩しそうだな」


 魔力の漏れを防ぐのも、スキルには現れないヴェルーガの経験だ。

 だが、誰にでも出来るかというと厳しいかもしれない。

 本来なら魔力を感じて自分の中に閉じ込めるというのはエルフですらかなりの時間を要するらしい。


 とにかく、それから4回ほど七曜の魔女を倒して、青色の珠を用意しておく。

 これからもあちこちに結界を張ることがあるかもしれないと思ったからだ。

 もし時間があれば、錬金術で媒体として加工しておきたい。



◇◇◇



 一晩休んで、またミストラルさんとマリー様といっしょにサウスタウンまでゲートで転移する。


 そこから3人とも浮遊させて、国境を越える。


「ようやく私が役に立つ時が来ましたね。『神罰の塔』はこちらの方向です」


 ミストラルさんに従い、聖メルティア教国の西端に向かって飛んでいく。


 しばらくして、血のように赤い塔が見えてくる。

 塔から棘が生えていて、いかにも罰を与えます、的な造形をしている。


「あれが『神罰の塔』ですか……」


「ええ、入ったら最後、二度と出られません。異端認定された者や聖職者殺しなどの者が幽閉されています」


 塔の入り口には白のローブをまとったいかつい武装兵が立っている。

 邪魔なので、とりあえずディストーションで吸い込み、王都の拷問部屋に直送しておいた。

 使っているうちにディストーションにも慣れてきた。


「で、どうやって入るんですか、ミストラルさん?」


「……クラウスさん、多分彼らが持っていた『免罪符』で出入りできるはずなのですが……」


「え、そうだったんですか? どうしよう。他に入る方法はないかな?」


 とりあえず入り口の前に立つ。

 赤い扉には髑髏の模様が描かれているが、取っ手などは見当たらない。

 でも、なんか凝縮された呪いのような雰囲気がある。


「アンチカース!」


 【上級光魔法】で解呪を試みてみると、赤い扉は光の粒子となって消えていった。


「よかった、開きましたね」


「そういう問題なのか、クラウスよ。まあいい、早く聖女を救出しよう」



 ゆっくりと中に入っていく。

 途端に空気が重くなり、ミストラルさんとマリー様は辛そうな顔をする。


「魔力が減っていく感じがします……」


 と、ミストラルさんが言うので僕は自分のステータスを意識して見ると、MPが減ったり増えたりを繰り返しているのがわかる。

 これは多分この塔がMPを吸収しているのだろう。

 僕は減るスピードより回復するペースが早いから問題ない。


「いったんここから出ましょう。ここにいるとMPが減っていくようです」


「いや、このまま行こう。外に出ても他の兵に見つかるだけだ。クラウスの側にいる方が遥かに安全だ」


「わかりました、マリー様」


 というわけで、そのまま進むことに。

 薄暗い広間にでる。



「おや、『免罪符』を持たずに来るとは、命知らずよのう」


「誰ですか、あなたは?」


「ヒッヒッ、私は『闇の処刑人』ラルゴ。ここの管理人であり、神に逆らう愚か者を神の御許に送る者さ。どれ、少し遊ぶとするか、『呪われし霊魂の残骸よ、彼の者に食らいつけ、カースドショック』」



 ラルゴが古びた杖をこちらに向け、黒い塊が幾つも発射される。


「ライトプロテクション!」


 僕は光属性の結界を張り、カースドショックを防ぐ。


「ほうほう、光の結界とな。もしかしてお主が真の『神の御子』クラウスか?」


 その名前いやなんだけど。


「『神の御子』かどうかは知らないけど、僕がクラウスだ」


「なら本気を出さねばなるまい。聖女よりも強い回復能力を持つ者よ。教皇様が汝を所望だ。生捕りにするぞ。そこの2人はこの神罰の塔の日蝕結界で果てるとよい。蠢く地獄の鎖、ヘルズチェーン!」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


<短編予定>こちらもご覧ください。


堕ちた最強英雄のやり直し~クズどもが何でこんなに弱いんだよ、仕方がない助けてやる

https://kakuyomu.jp/works/16817330655806429324/episodes/16817330655806802930

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