第108話 魔界の貴族
「蠢く地獄の鎖、ヘルズチェーン!」
ラルゴが唱えると僕たちの足元から赤黒い鎖が現れ、巻き付こうとする。
僕は右足に光の属性を帯びた魔力をまとわせ、地面を力強く踏みつける。
「体震激・光!」
【中級体術】の体震激に光属性を追加した攻撃だ。
体震激は自分が囲まれたときに周囲の敵にダメージを与えて短時間スタンさせる技。
そして、赤黒い鎖がバラバラに砕け散っていく。
「なんじゃと!?」
「
いちいち教えたりはしないけど、すでに外闇魔法についての知識、経験を【交換】したので、本来の外闇魔法より威力は低い。
僕は外闇魔法の知識や経験などもともともっていないので、失うものはない。
逆に僕は闇魔法が強化され、【闇属性強化】のスキルが生えてきた。
「ライトボール!」
続けて、初級光魔法を水平5方向に向かって放つ。
「どこを狙っておる……? いや、まさか」
「そう、日蝕結界の5つの魔法媒体を狙ったんです」
少しして、ガシャァァァンとちょうど五芒星の頂点に位置する場所にある宝石が壊れる音がする。
そして、まとわりつくような空気が少しずつ薄くなっていき、MPの減少も止まる。
「バカな! あんな下級魔法でけっ……」
なにか言いかけていたが、もう邪魔な結界も壊したし記憶も覗いて用はないので、メタルブレードでラルゴの首を刎ねる。
ゴトリ、とラルゴの首が地面に落ちるが切断面から血が出ない。
おかしいなと思った数瞬後ラルゴの体が膨張して服が破れ飛び、体色が黒ずんでいき翼が生える。
そして首の断面から尖った耳に裂けた口をした顔が現れる。
「ケケケ…… 人間界に出られたぞ。だが、この者の寿命にはまだ時間があったはずだが……」
「何なのだこの魔物は……」
「そこの女、我を人間界の魔物と同じにするな。我は魔界の貴族ガーゴイルだ!」
「なんと…… 伝承では世界創成期に女神メルティアと戦ったとされる魔界の魔物が……」
「ミストラルさん、知っているんですか?」
「書物の上だけですが。魔界の王の部下であり女神メルティアの軍勢と戦ったと言われる強力な魔物です」
「まさか、アビスゲートが開ききる前に封印されたため、アビスゲートを通れなかった強大な魔物ということか」
「そうだ、そこな女よ。だが、【ダークビショップ】が魔界の力を行使する度、我の魔力のかけらをこの者に取り憑かせていたのだ。我を完全に再現するには至らぬが、この素晴らしい塔の魔力のおかけで我が顕現することができたのだ。全く、人間とは愚かよのう」
アビスデーモンよりは強そうだ。
「アビスデーモンとどっちが強いんですか?」
「あんな貴族気取りの雑兵といっしょにするでない。さあ、3人といささか少ないが殺戮の饗宴を始めようではないか。暗黒魔法『デモニックフィールド』! 深淵の闇に招待しよう」
ガーゴイルの魔法により、辺り一面が真っ黒になり地面の感覚がなくなる。
まるで宙に浮いているようだ。
僕の両脇ではミストラルさんとマリー様が片膝をついてしゃがみこんでいて、肩で息をしている。
この感じ、スパイトの地に踏み入ったときの呪いの数十倍は嫌なものだ。
「清浄結界!」
僕は二人の周りに結界を張る。
二人の顔色がだんだん良くなっていく。
「その結界から絶対出ないでください」
二人は無言でうなずく。
「貴様、なぜ平然としている? あらゆる呪いが渦巻くデモニックフィールドの中だぞ」
「さあ? 僕にその手のものは効きませんから」
【リボン】があるからね。
「【勇者】か? しかし既に【魔王】スキルとともに消滅したはず。【女神の加護】か? まあどのみち所詮人間。ここで死ぬことに変わりはない」
いろいろ喋っているが、ちょっと本気を出してもよさそうなくらいは強いはず。
「【MPバースト】! シャイニングバインド!」
天から降ってきた光の剣でガーゴイルを囲む。
「ふん、こんなもの! ……なに、砕けぬ!」
ガーゴイルが手に瘴気をまとい何やら色々と暗黒魔法をぶつけているが檻代わりの光の剣はびくともしない。
でもこれはただの準備で、次が本番だ。
「聖天より来たれ、裁きの光よ! ホーリージャッジメント!」
シャイニングバインドの真上から一筋の光が差し落ちてくる。
落ちてきた光は檻の中で分裂し、光の剣にぶつかっては反射を繰り返しガーゴイルにぶつかっていく。
ホーリージャッジメントは詠唱なしでも発動できる。
シャイニングバインドも発動しておかなくてもいいが、あれば後に続く光魔法の効果が上昇する。
また、無詠唱が使える者限定だけど詠唱をわざと追加する事で威力を上昇させられる。
「クッ、人間ごときの光魔法で…… おのれ、やはりまだ不完全な召喚だったか…… グハァ、ウボァー」
全方向からの光線を浴び続けて少しずつガーゴイルが溶けていく。
そして光の粒子となって消えていき、一際大きい真っ黒な魔石が残る。
デモニックフィールドも無事解除され、元の広間の景色が広がる。
「ちょっと手強かったですね。僕の光魔法の連携に耐えていました」
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます