第109話 衰弱した聖女
「ちょっと手強かったですね。僕の光魔法の連携に途中まで耐えていました。あ、上で結界が張られているようですね。それが多分聖女様なのでしょう」
階段を登り、最上階に着く。
そこでは聖女様と思われる一人の美少女が祈りを捧げている。
その周辺に純白の神々しい結界が展開され、いっしょに囚われている人間を守護しているようだ。
「聖女様! プリン! 無事ですか!」
ミストラルさんが駆け寄っていく。
「お兄様、レティシア様はずっと魔力を前借りして結界を張り続けているの。私の力は最後まで温存しておきなさいって。早くこの場所から出ないと死んでしまうわ!」
今にも結界が消えかかっている。
聖女様もかなり消耗しているようだ。
あの結界はたぶん聖女にしか使えない神聖結界。
僕には真似できないが、近いことならできなくもない。
「浄化結界!」
皆が囚われている部屋全体を結界で覆う。
これで神罰の塔の影響を受けないで済む。
ラルゴの思考によると、この神罰の塔自体が生命力を減少させる魔道具のような機能を果たしているようだ。
さきほどの日蝕結界は後からラルゴが特殊な宝石を用いて付け足したもの。
「レティシア様以外に結界を使える者がいるとは……」
聖女の付き人と思われる人が思わず呟くが、それは後だ。
「いったん僕の屋敷に行きましょう。そこなら療養できます。いいですか、ミストラルさん」
「ええ、お願いします」
僕はゲートを開く。
「皆さん、この中へどうぞ」
「「「何だこの紫の空間は……」」」」
ああ、普通の人だとそんな反応になるんだ。
「大丈夫です。私が保証します。早く聖女様をこの場から脱出させましょう」
「わかったわ、お兄様」
ミストラルさんがフォローしてくれたので、プリンさんとマリー様が聖女様を抱えてゲートをくぐっていく。
そしてそれを見た他の皆も次々とくぐっていく。
最後にくぐった僕は、自分の屋敷のエントランスに転移する。
転移先ではメイアーさんが慌ただしくしていた。
ごめんなさい。
まさか聖女様がこんなに衰弱しきっているとは思わなかった。
◇◇◇
客室のベッドで聖女様を休ませる。
ベッドは当然100%ヘルコンドルの羽毛布団だ。
あらためて聖女様を見てみる。
茶色の短くウェーブのかかった髪に整った目鼻立ち。
だが、今顔色が悪いのはMPが枯渇しているときの症状だ。
聖女様に付き添っているプリンさんによると、聖女様は結界魔法を使えて消費MPは相応に多く固有スキルで幾分か軽減されるが、それでもMPが足りなくなった時は自分のMPを前借りできるとのこと。
ただ、今回は何日も結界を張り続けて皆を神罰の塔から守っていたので、いったいどれくらい前借りしているのか想像もつかないという。
最悪目を覚まさないことも覚悟しなければならない、とプリンさんが悲壮な声で告げる。
さすが聖女様。
自分を犠牲にしてみんなを守るなんて。
今の僕にできるのは……
「フェアリーヒール! 月癒結界!」
見た感じ怪我とかはなさそうだが、一応完全回復魔法をかけておく。
さらにMPの回復を早める黄色い結界も施す。
僕自身はMPの回復スピードが速いのであまり必要としないのだが、今のような状況にこそ必要だろう。
あとは、聖女様次第だ。
「あなたは……、ありがとうございます。本当に『神の御子』なのですね。
プリンさんが可愛い顔に似合わず毒を吐いている。
「いえ、どういたしまして。『神の御子』ではありませんけど。すみませんが、ここでしばらく聖女様を見ていてもらえますか? 僕はまだやることがあるので」
「はい」
◇◇◇
ミストラルさんとマリー様を連れてスタン侯爵邸にゲートで移動する。
「スタン侯爵様、聖女レティシア様を取り戻しました。衰弱なさっているので僕の家で休まれています」
「ふむ、ご苦労であった。こちらも軍をサウスタウンに向かわせておる。早々に片付くだろう」
「はい。それでですが、『神罰の塔』を破壊する許可をいただきたいのですが」
「……。またとんでもないことを言い出しおった、というところだが、なぜだ?」
「『神罰の塔』はそれ自体が呪われた魔道具です。番人を倒したあと、その死体を媒介に魔界の魔物が顕現しました。あのまま放っておくとまた同じことが起こるかもしれません」
「お父様、私も魔界の魔物を見ました。ガーゴイルという自称魔界の貴族が出現したのです。クラウスが撃破しましたが」
「ミストラルよ、メルティアでの『神罰の塔』の位置付けはどのようなものだ?」
「はっ、侯爵様。女神メルティアが悪しきものどもを隔離し滅ぼすための施設と伝わっています。ですが、実質は教皇に逆らう者の処刑場です。あの塔からは禍々しい雰囲気が発せられており、中にいるだけで生命力やMPが減少する恐ろしい場所です。今回魔界の魔物が顕現するのに利用されてしまったことを考えると、女神もお許しくださるのではないかと愚考いたします」
「陛下と相談するからそれまで待機せよ。クラウスよ、破壊する算段はあるのだな?」
「はい、おそらく破壊できるかと」
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