第106話 サウスタウンで反撃
僕とミストラルさんとマリー様でサウスタウンの手前まで転移する。
「対人障壁!」
七曜の魔女からドロップした青色の珠を魔法の媒介として、ティンジェル王国民のみ通れる結界を張る。
薄緑色の透明な結界がサウスタウンの北端をなぞりながら展開されていく。
本当は青色の珠を錬金術で加工したら一番いいんだけど、今は急ぎなのでそのまま使っておく。
これで一つ達成。
「あーホントに入れませんねー」
ミストラルさんが薄い緑の結界を通ろうとするが、当然通れない。
マリー様は素通りできる。
「レティシア様でさえこんな結界張れませんよ……」
「クラウスよ、サウスタウンの中心に転移できるか? 中の様子を見ておきたい」
「行けますよ、マリー様。ゲート」
◇◇◇
サウスタウンの中心街に転移する。
軒並み店は閉まっていた。
雰囲気は暗い。
所々破壊されている。
「駐在部隊の詰所は……あちらですか。メルティアの武装兵がいますね。魔物の姿が見えますが、暴れていないようですね」
「おそらくモンストーラーで制御しているのでしょう」
「十分な数が揃った、ということか」
「そうですね、マリー様。危険なので回収しましょう。その前に使い方も知っておきたいですね。誰か一人捕まえてきましょう。ちょうどいい見張りがあそこにいますね。ディストーション!」
少し遠くにいたメルティアの白いローブを纏った武装兵の足元に黒い渦が発生し、静かに兵士を飲み込んでいく。
そして、僕の斜め前の空間に同じ黒い渦が発生し、目の前に黒い鎖でがんじがらめにされた兵士を吐き出す。
ディストーションは【時空魔法】と【捕縛術】の組み合わせだ。
エルフは【捕縛術】を持っていないので、あれこれ試してみたらできるようになった僕のオリジナルだ。
「ここは……いったい? いきなり落ちるような感覚があってから…… お前達は誰だ?」
「ティンジェル王国の者ですよ」
途端にこの兵士のステータスが見えるようになった。
さっそく記憶を覗くと、魔法が得意な兵士がモンストーラーとバリアブルケージを持っているようでこいつは持っていない。
とりあえずゲートで王国の拷問部屋へ蹴り込んでおく。
「サウスタウンの役所をとりあえずの拠点としているようです。ちょっと役所まで行ってきて一人魔法兵を連れてくるので、少し待っていて下さい」
【時空魔法】で存在を隠してサウスタウンの役所に侵入。
魔法兵を一人『ディストーション』で連れ去り、ミストラルさん達のところに戻ってくる。
「なんなんだ? いきなり落ちるような感覚があってから…… 貴様らは誰だ!」
今度の人はもうすでにステータスが見える。
とりあえず持っていたバリアブルケージとモンストーラーを取り上げて、使い方を記憶で確認する。
どうやら使用者として登録された者しか使えないらしい。
バリアブルケージは無理矢理破壊するとその場で中にいる魔物が現れ、この場合モンストーラーがあっても制御ができない。
登録は魔力紋で行っているので、普通は使用者かスパイト王国にあるマスターマシンでないと解除できない。
ただ、僕なら魔力紋を偽装できるのでたぶん問題ない。
これで完成品のモンストーラーとバリアブルケージが手に入ったので、あとはディメンジョンボックスの出番だ。
普段は僕が倒した魔物の魔石とドロップアイテムを自動回収するようにしているが、今回はモンストーラーとバリアブルケージを自動回収の対象に設定する。
あ、その前に回収すると今バリアブルケージから出ている魔物の制御ができなくなるから、先にそいつらを倒さないといけないな。
まず【ステルスサーチ】で街中にいる魔物の数と位置を把握。
【時空魔法】が極まっているせいか、【ステルスサーチ】により把握できる精度は格段に上がっている。
そして、
「【MPバースト】、ウインドカッター!」
【MPバースト】で対象への遠距離攻撃追尾機能を追加し、ウインドカッターを発動。
発動した風の薄い刃は四方八方に散らばり、しばらくして魔石とドロップアイテムが僕の手元に集まってきた。
これでオッケーと。
あとは、自動回収の対象にモンストーラーとバリアブルケージを加える。
四方八方から丸い球と四角い球が集まってきて、僕のディメンジョンボックスに入っていく。
「なんだこれは!? どうなっているんだ、魔物が急に倒されたぞ!」
「あっちの方向に勝手に飛んでいったぞ!」
あ、やば。
バレそう。
ゲートを開く。
マリー様が動かないので仕方なく手を引いてすぐさま三人でいったん王都のスタン侯爵邸に移動する。
「ごめんなさい、うっかりしてました。物が勝手に飛んでったら僕たちの居場所がバレますよね」
「いや、クラウスさん、そういう問題では…… 私は慣れていますが、マリー様が唖然としてらっしゃいますよ」
「うん…… すまない、一体何が……」
マリー様に僕がしたことを手短に説明する。
「なんとそんなことまで……」
とりあえずここまでをスタン侯爵様に報告だ。
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