第105話 聖メルティア教国の侵攻
呼ばれることには慣れてしまったが、ミストラルさんを連れて来いというのはなぜだろう。
「ミストラルさん、今から王宮に行かなければならなくなりました」
「貴族になると大変ですね。『永遠の回廊』に挑むのはまだ先になりそうでしょうか」
「それで、今回は緊急事態につきミストラルさんも連れてきてとのことなのです」
「私ですか。何だかわかりませんが、早くいかないと心証が悪くなりそうです。すぐにお願いできますか?」
「はい」
ミストラルさんを連れてゲートで王宮へ移動。
そして王の執務室に入り二人とも片膝をついて陛下に挨拶する。
他には、宰相様、エリア、スタン侯爵様、マリー様がいる。
「陛下、招集に応じ参りました」
「ふむ、クラウスよ、楽にしてよいぞ。宰相」
僕は立ち上がるが、ミストラルさんはそのままだ。
宰相様が陛下からの話を続ける。
「サウスタウンが聖メルティア教国により占領された。S級モンスターも出現しているそうだ。また、混乱に乗じてスパイト王国からの不法入国者が激増している」
サウスタウンは南西で聖メルティアと、南東でスパイトの両方に国境を接している。
魔の聖域の交易路開通に伴い王国はスパイトとの取引を減らし、例年の支援も規模を縮小すると宣言し同時にスパイト側の国境の警備の強化も行っていた。
カイル帝国もそのはずだと聞いている。
「クラウスよ、人を通さない結界を展開できるそうだな。ティンジェル王国民以外を通さない結界を展開できるか?」
「はい宰相様、可能です」
「どのくらいの日数保つのだ?」
「魔力の供給なしなら5日程度。S級の魔石を媒体に使えば10年ほどでしょうか」
「ふむ……。ならば、サウスタウンに赴いて結界を展開するのだ。これ以上の侵攻は防がねばならん」
「承知しました」
「そして聖メルティア教国であるが、侵攻の名目は王国に不当に隷属させられている『神の御子』クラウスを聖メルティア教国の御許に奪還するためということだ。教皇が『神の御子』を騙った者として聖女一派を『神罰の塔』に幽閉しているそうだ」
「!」
隣でミストラルさんがわずかに反応する。
「クラウスよ、広範囲完全回復魔法を幾度か使ったであろう? 人の口に戸は立てられぬものでな、そこから一部では神の奇跡として伝わっているところを口実に使われたというわけだ。『神の御子』を王国が拉致・洗脳し従わせていると」
「戦場でしか使っていなかったはずですが…… 治してとあちこちから言われてもキリがないですし」
あ、わかった。
だから教会は『アンチカース』の行使に高い金を取っているのか。
「ふむ。別に其方を責めているわけではない。向こうの言いがかりなのはわかっている。それで、敵国となったからには我が国にいる聖メルティア教の信徒たちを順次拘束している。そこでクラウスのパーティメンバーであるミストラルも呼んだわけだ」
「ミストラル、この場での発言を許す」
宰相様の言葉を受けて、陛下がミストラルさんに発言を許可する。
「発言の許可をいただき畏れ多くも申し上げます。私は聖女派に属する者でございます。聖女レティシア様の命を受けて、王国内にいる教皇派の動向を聖女様に報告しておりました」
宰相様がやはりそうだったか、という顔をして聞いている。
「なるほど、聖女派か。だが、メルティアがこの国に侵攻してきたゆえ、貴様の身は保証できぬな」
「はい。こうなってしまった以上当然かと。お聞きするのも烏滸がましいのですが、捕らえられた聖女一派に次期聖女候補はおりませんでしたでしょうか?」
「プリンという者であろう。その者が捕らえられたため聖女が抵抗出来なかったと聞いている」
「申し訳ございません。その者は私めの妹でございます」
「ミストラルさん!」
「すみませんクラウスさん、トチ狂った教皇が侵攻などしなければこの国に迷惑をかけることはなかったのですが……」
「本来ならA級の力を持つ貴様を拘束すべきだがな、クラウスに協力して聖女を奪還すれば不問としよう」
「宰相様、身に余るご配慮のほど何と感謝すればよろしいのか、言葉を持ち合わせておりません」
「だが、監視はさせてもらう。マリーよ、近衞騎士としてクラウスに同行し、その者の監視をせよ。不穏な動きを見せた場合は……、わかっておるな?」
「承知いたしました」
マリー様って陛下直属の近衛騎士だったのか。
騎士の中でもエリート中のエリートだ。
そりゃタケヤマ如き一撃だよな。
「それではクラウス、仕事が多いが頼むぞ」
「はい。まずはサウスタウンで対人結界を張ることからですね。そして、サウスタウンのS級モンスターを倒し、聖メルティア教国からサウスタウン奪還。その後幽閉された聖女レティシア様達を救出し、教皇を打倒する、でよいですか?」
「うん? いくつか頼んでいないことがあったような…… まあよい。一つ終わるごとに必ずスタン侯爵に報告をするようにな」
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