第103話 ご主人様 

 ドレミーに勝利した僕は目を覚ましてテレプレートでエリアに連絡を取る。


(起こしてごめん。でも急ぐんだ)


(わかったわ。よほどの案件なのね。私はどうすればいいの?)


(えっと、陛下と宰相様は起きていらっしゃるかな?)


(さすがに寝ておられると思うけど…… 二十分後に王宮に転移してきて。それまでに起こしておくわ)


(ありがとう。助かる)


(どういたしまして)




 コン、コン、とドアがノックされる。


「ドレミーです、ご主人様」


「あ、ちょっと待って、着替えるから」


「承知しました、ご主人様」


 なんかキャラ違くないか? 

 夢の中では男勝りな口調で派手な格好をしていたのに、現実ではお嬢様のような口調と格好だ。

 見目も美しい。

 なぜ独身なのかわからないくらいだ。



◇◇◇



 二十分後、ドレミーを連れて王宮にゲートで移動する。


 ドレミーを見たエリアが何か言いたそうだったがそれは後で説明するとして、陛下のところに案内してもらった。

 宰相様も待機していた。


「陛下、就寝中のところ申し訳ありません。ですが、時間がありませんのでさっそく申し上げてよろしいでしょうか」


「まだ起きていたから構わんぞ。そこのご婦人に関わることか?」


 僕は陛下に、帝城で就寝中にマリーさん以外がドレミーのスキルによる攻撃を受けたこと、ドレミーのスキルを説明し、僕がドレミーを倒し逆に支配下に置いたことを告げる。


「……なるほど。先程【ドリームワールド】の内容を知った儂や宰相やエリアには効かなくなるのか。いったん下した命令は取り消せないのか? ドレミーよ、発言を許可する」


「畏れながら国王陛下に申し上げます。私めのスキルによる命令は取り消すことが叶いません」


 ドレミーさんが陛下に答える。


「まずいな。宰相よ、今すぐ代わりの者を選定するのだ。叩き起こしてでも連れてこい。クラウスよ、命令を受けてしまった二人を今すぐ連れてきてくれ」


「承知しました。ドレミーの処遇についてはいかがいたしましょうか」


「それは後だ。クラウスには絶対服従なのだろう? この件が終わるまでは大人しくするよう命令するのだ。それまではクラウスの屋敷で客人として扱うのがよかろう」


「というわけです、ドレミーさん。今から僕の屋敷に送るから、しばらく客人として【ドリームワールド】を使わず大人しくしておいて下さい」


「分かりましたわ、ご主人様」



「「「ご主人様……?」」」




 場の空気が凍りつく。



(後でゆーっくり説明してもらうわよ、クラウス)


(ちゃんと説明するから、その視線やめて下さい、エリアさん)


 陛下はいろいろと察したのかすぐに面白そうに笑っていたが、エリアの目線に耐えられそうにないので僕は逃げるようにゲートを開き、自分の屋敷に転移する。


 屋敷ではメイヤーさんがまだ起きていたので、事情を説明してドレミーさんを預かってもらう。

 陛下といい、宰相様といい、メイヤーさんといい、いったいいつ眠っているんだろう?



◇◇◇



 僕はボストン卿、官吏3人を起こして、マリー様を含めた全員をゲートで王宮へ連れ帰り、事情を説明する。


「何とそんなことが……」


 ボストン卿はまだいい。

 だが、ドレミーに交渉をメチャクチャにするよう命令を受けていた2人は顔面蒼白だ。


「仕方ないですよ。夢の中なら最強ともいえるドレミーと戦って勝てる者はいないと思います」


「クラウスの申す通りだ。儂は其方達を責めはせぬ。だが代わりの者と今すぐ交代し、明日の朝までに交渉を引き継ぐのだ」


「「はっ」」



 宰相様に命じられ官吏達は慌てて引き継ぎを始める。



 ドレミーによると2人は帝国との交渉中に余計なことをするよう命令を受けたが、交渉の場に出さず交渉が終わればその命令も消滅するという。



 官吏達の引き継ぎが終わるまで僕は少しだけ仮眠させてもらい、翌朝もう一度帝城の客室にそれぞれを戻す。

 



◇◇◇



 交渉は4日に及び、ほぼ王国の望む結果を得られたようだ。


 そしてさらに一週間後、街道の中間地点で両国の調印式が行われることとなった。

 対人障壁も既に解除している。


 クロスロード国王陛下とザンデ皇帝が向き合い調印する。

 


 これで僕の領地経営もなんとかなるだろう。

 通行料は5年僕が徴収してよい。

 料率は必ずスパイト王国の半分以下とすること。

 入国税は互いの国の認可する商人に限っては免除。

 その他は通常と変わらない。

 関税も以前と変わらないが王国が課する分は0.5%上乗せし、それは僕が後で国からもらう形になる。

 あとはごく少ない数だが住民から税金を徴収する。

 魔の聖域を少しずつ削っていけばその問題もいずれは解決できる。



◇◇◇



 大方の事前の予想通り瞬く間にここが両国にとって主要な地となった。

 役割はスパイトから変わっただけとも言えるが何せ輸出入のコストが半分以下になるのだ。

 賄賂も必要ないし、治安の悪い国を通る必要もない。

 サランディア領から治安維持のための兵士が街道を常に巡回しているため、治安はよく保たれている。

 スピネルさんは通行料の8%で当面の間兵を出してくれると申し出てくれた。


 一番儲けたのはクレミアン商会だ。

 街道の整備事業を成し遂げ、権利関係が一気に集まっているからだ。

 当初から組んでいた商会やトーマス商会とも分け合ってはいる。

 街道の出店の許可などは領主である僕の権限だが、全てウォーレンさんに丸投げしている。

 一応僕に付けられている補佐官やメイヤーさんが確認はしているので非常識なことはできないようになっているけど。


 そして領民を増やすため、街道から北1kmほどをさらに開拓。

 あとは僕の部下達にお任せだ。



 


◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 絶対服従なのであんなことやこんなことも……


<短編予定>こちらもご覧ください。

堕ちた最強英雄のやり直し~クズどもが何でこんなに弱いんだよ、仕方がない助けてやる


https://kakuyomu.jp/works/16817330655806429324/episodes/16817330655806802930

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