第57話 狂信者 

 僕は、スタン侯爵とマリー様にゆかりの森であったことを全て話した。




 【ステルスサーチ】や固有スキル【アリストキラー】を持ったジョージアに奇襲され死にかけたこと。

 ジョージアは聖メルティア教国の教皇直属の暗殺部隊の者であり、教皇の指示によりこれまで貴族の子女を誘拐していたこと。


 今回、スパイト王国から金と引き換えに譲り受けたバリアブルケージを使って襲撃し、混乱の隙をついてクロエ様を誘拐したこと。

 教皇がこれまでの身代金をもとにティンジェル王国に攻め入る準備をしていること。


 ジョージアは、僕に向かってきたが敵わず、さらに情報を引き出されることを恐れ自害したこと。


 クロエ様はもう一人の女の協力者の元で軟禁されているが無事であること。

 もう一人の協力者は、王都にある聖メルティア教の教会の地下室にいてジョージアを待っていること。


 そして、ジョージアの死体をマジックバッグから取り出し、彼の持っていたモンストーラーとバリアブルケージも見せる。





「そうか、クラウス。ジョージアが自害した時点までは妹は無事なのだな。だが、ジョージアが戻ってこないとなると、それもどうなるかわからん。すぐにでも教会の地下室に乗りこまなければ。クラウス、手を貸してくれ、頼む」


「もちろんです、マリー様」


「話についていけぬぞ。其方が襲撃犯を返り討ちにしたこと、その死体が襲撃犯ということは仮に信じられるとしても、マリー、確証もなしに教会に乗りこむなぞ、正気の沙汰ではない。教皇の所業も、スパイト王国と教皇が繋がっているというのも妄言にしか聞こえん」


 酷い言われようだ。

 正直腹が立つが、まあ後半に関しては物証がないから僕のスキル以外で証明する術はない。


「お父様、信じられぬのも分かりますが、時間がありません。クラウスのスキルが今まで違えたことはないのです。もし違えていて教会ともめるなら、この私の命を差し出しましょう。クラウス、着いてこい、準備する」


「お、おい待てマリー!」


「その死体と魔道具は置いていくので早急に検証して下さい、お父様」


 僕はマリー様について侯爵様の部屋を出た。



◇◇◇



 そして、クロエ様がいる教会の裏口に向かう。

 誰もいない裏口から地下室に入る。

 そこには、クロエ様ともう一人青髪の女がいた。




「あらジョージア、遅かったじゃない」


 女はジョージアに近づいて抱きしめ、さらに顔を近づける。


「ジョージアじゃないわね! 誰⁉︎」


 女は素早く後ろに下がり距離をとる。




 もうバレたか。

 僕は【ステルスサーチ】を解除し、元の姿に戻る。

 【隠蔽Ⅳ】で使える変装を使っていたのだ。

 バレた理由は、ジョージアと女が恋人だったため、抱きしめた後キスをしなかったことを不審に思われたからだ。

 ここで女が僕に敵意を持ち、女のステータスがわかる。

 女の名はジェニー。レベルは120だ。


「クロエ! 無事か⁉︎」


「ええ、お姉さま、無事よ」


 この隙に閃影のローブを着て僕の後ろに隠れてついてきたマリー様がジェニーの隙をついてクロエ様を確保する。



「どうなってるの? あなたは誰? ジョージアをどうしたの!」


「彼は死毒のナイフで自害しました」


 僕は死毒のナイフを見せる。


「そんな! そのナイフを持っているということは………… 絶対に許さない! 【イミテーション】!」


 ジェニーが固有スキルを発動する。

 これは対象の全ステータスと全スキルを一時的にコピーできる。

 実質的に固有スキルが2つだ。

 ずるい。

 ただし、レベルアップ時の成長率が低くなる。

 そのため、レベルは120なのに【イミテーション】発動前のステータスはレベル80相当くらいしかない。

 

 ジェニーは恋人のジョージアを【イミテーション】の対象に設定している。

 今の彼女は死ぬ前のジョージアと同じだ。

 つまり僕が【交換】して弱体化したあとのステータスだ。


 かつて副騎士団長が敗北したのも、彼女のせいだった。

 ジョージアが副騎士団長と戦っている間に【イミテーション】でジョージアと同じステータスになった彼女が挟み撃ちにしたのだ。


 僕の【交換】の対象となるのは【イミテーション】後の状態ではなく、彼女の本来の状態だ。

 交換スキルでは、両方の状態が見えている。



スキル

【高速詠唱Ⅱ】(←【詠唱短縮Ⅴ】)



 【高速詠唱Ⅱ】は詠唱時間を70%短縮する。

 これ以外はいいスキルがなく、ジョージアでストックしていたスキルを使い果たしていたので今回はこれだけ交換だ。


 今度はジェニーが自害しないように立ち回ろう。



◇◇◇



(絶対に許さない…… オーラブレード! ……なぜ発動しないの? ラナウェイ! これもなの…… 彼が得意だった直刺剣は使えそうね。死ねぇぇぇぇぇ!)

 

 ジェニーが持っている剣で直刺剣を発動するが、思考を読んで何をするかわかるので躱すのは簡単だ。


「無駄です、ジェニーさん。大人しくしてください。……バインドチェーン!」


 黒い鎖でジェニーの全身を拘束する。

 ジェニーが持っているのは聖光剣で、光魔法の効果を20%上昇させることができる。

 【中級光魔法Ⅳ】を持っているジェニーのために与えられていた。

 この剣で死毒のナイフのような自害は無理だ。

 そしてバインドチェーンで拘束したから、あとは侯爵様か軍にでも引き渡して取り調べてもらおう。


(バインドチェーン? ジョージアのステータスなら力ずくで解除できるわ。……そんな! 倍になったジョージアの器用よりも高いというの? このままだといずれ…… だからジョージアは自害したのね。ごめん、仇は取れなかったわ。メルティア神の御許でまた会いましょう)



 まずい。

 ジェニーは手の部分だけバインドチェーンによる拘束を無理やり振りほどいて手持ちの魔道具を起動してしまった。

 武器の確認で安心してしまって所持品の確認はしていなかった。


 起動したのは『スーサイド』という自害用の魔道具で、【上級闇魔法】の『デスリッチ』を再現したものだ。


 デスリッチは相手を即死させる魔法だが、成功率はさほど高くない。

 だが、自分を対象にすると100%成功するという普通は大して使う価値のない魔法だ。

 こんなものを持ち歩いてしかもためらいなく使うなんて、まるで狂信者だ。

 それともメルティア教自体がおかしいのか?


 もう既に起動した魔道具を【交換】したら僕が死んでしまうかもしれない。


 ……結局、僕はジェニーが死ぬのを見ているしかなかった。



◇◇◇



「クラウス、何か情報は得られたか?」


「……いえ、マリー様、ジョージアと変わりませんでした」


「そうか……。クラウス、ここで待っていてくれ。上にいるメルティア教徒をここへ連れてくるからな。クロエから目を離すなよ」



 しばらくして、マリー様が教会の神官たちを連れてきたが、ジェニーのことは知らないというし、そもそも地下室のことすら知らなかったという。

 どうなってるんだここの教会は。

 この神官たちのステータスは見えなかったから、少なくともジェニーのことを知らないのは本当だろう。


 僕とマリー様は、クロエ様を連れてディアゴルド邸に帰った。





◆◆◆◆◆◆

※番外編を書いています。

◆番外編 ピュアブライトリング 1 ~ 5

https://kakuyomu.jp/works/16818093083567610939/episodes/16818093083568542443


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 あとはこの貴族誘拐編の後始末ですね。準男爵になっているクラウスの扱いどうしよう……

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