第56話 盲信の暗殺者
「死んだか。さて、マジックバッグを探すか」
男はうつ伏せに倒れているクラウスを冷たく見下す。
「我らがメルティア神の礎となったことをあの世で誇るがいい」
そう呟きながら男はクラウスの体を乱暴に足で蹴って仰向けにする。
そして、しゃがみこんでマジックバッグを探すためクラウスの体に手を触れた。
その瞬間、クラウスは男の手を掴み目を開ける。
「やっぱりいいスキルを持ってるじゃないか」
「なぜ生きている!?」
男はクラウスの手を振りほどき、素早く後ろに下がる。
◇◇◇
なぜって、それはエリアのおかげだ。
死毒は最大HPの250%になるまでダメージを与え続ける。
だが、僕は毒の効果を20%軽減する【毒耐性Ⅱ】を持っている。
そしてエリアにもらったレジストアミュレットの効果で40%軽減もあり、あわせて60%ダメージを抑えられる。
これだけだとまだ最大HP100%分のダメージが残っているが、【ライフレスキュー】によりHPが10%を切った時点で自動回復が発動する。
死毒の累積ダメージが100%になっても、わずかなHPが残って死なずにすんだのだ。
が、そんなこと説明してやる必要はない。
すぐに【交換】スキルを発動する。
これで一発逆転だ。
HP:7920/20493(←2049/20493)
スキル
【ステルスサーチ】(←【探知Ⅲ】)
【クイックⅢ】(←【速さ上昇Ⅲ】)
【コンプレクスⅡ】(←【毒耐性Ⅰ】)
【エクスペリエンスⅢ】(←【生活魔法】)
【捕縛術】(←【最大HP上昇Ⅱ】)
【上級剣術Ⅱ】(←【初級剣術Ⅳ】)
【毒耐性Ⅳ】(←【毒耐性Ⅱ】)
【暗闇耐性Ⅳ】(←【暗闇耐性Ⅰ】)
その他
速さ成長率
この男の名前はジョージア。レベル177。
出身は聖メルティア教国で、現教皇の暗殺部隊の一員。
固有スキルは【アリストキラー】といって、相手が貴族の場合、一時的に全ステータスが2倍になり、全てのスキルレベルが1つ上がる。
逆に相手が貴族でない場合、全ステータスが半分になり、全てのスキルレベルが1つ下がる。
つまり、貴族絶対殺すマンだ。
そりゃあ身代金の運び相手に貴族を指定するわけだ。
貴族かどうかはカードで判断されているみたいだ。
今の僕はノーブルカードを持っているので、貴族判定されておりジョージアの全ステータス、全スキルは上昇した状態が見えている。
現在HPだけはそのままだが。
僕がいいスキルを持っているといったのは、【探知Ⅴ】と【隠蔽Ⅴ】を併せ持つさらに上位スキル【ステルスサーチ】だ。
これのせいで【探知Ⅲ】しかなかった僕は全く気が付くことなく左腕を斬られ『死毒』を付与されたのだ。
こんな危ないスキルは僕が没収してあげないとね。
あとは【クイックⅢ】(速さ+40%)、【コンプレクスⅡ】(器用+35%)、【エクスペリエンスⅢ】(取得経験値+80%)がいい感じだ。
◇◇◇
(何故だ? 【ステルスサーチ】のラナウェイが発動しない! 【捕縛術】も! まさか、スキル封印か奪取持ちなのか? そんな貴族はいないはずだが…… それに、何かスキルを発動した素振りもなかった)
ジョージアは焦っている。
ラナウェイは同じ【ステルスサーチ】持ちがいなければ確実に逃走できるスキルだ。
「逃がすかよ! グレートドラゴンもお前の仕業だろう。クロエ様はどこだ! ……もう一人協力者がいるのか」
ジョージアの思考と記憶を読む。
(何だと? 俺は何も喋っていないというのに。もしかして心が読めるのか? 早く始末しなければ!)
「直刺剣!」
【アリストキラー】でステータスが倍になっているが、こちらも【弱者の意地】込みでジョージアのステータスを上回っている。
最短距離で突きにくる初級剣術の直刺剣をサッと横に躱して、【捕縛術】の『手加減』を発動して攻撃する。
ジョージアのHPは残りわずかとなった。
(くそっ、倒すこともできないのか! お許し下さい、教皇様!)
「! バインドチェーン!」
自害しようとするジョージアを拘束すべく【捕縛術】を使って黒い鎖を放ったが、その前にジョージアは自分をナイフで切りつけた。
僕は、すぐに武器の【交換】を行う。
瞬間、僕の『メタルブレード』とジョージアの『死毒のナイフ』が入れ替わる。
が、既に遅く、手加減によりHPがほとんどなかったジョージアはすぐにHPが尽きてステータスが見えなくなった。
◇◇◇
クロエ様の場所は読みとっておいた。
ジョージアの記憶によると今のところは無事なはずだ。
早くディアゴルド邸に戻ってスタン侯爵に知らせないと。
侯爵は僕を死地に送ったが、娘の身を案じている父親に変わりはないのだから。
メタルブレードを回収し、マジックバッグにジョージアだった死体を収納した。
◇◇◇
ディアゴルド邸に戻ってきた僕は、すぐにスタン侯爵に面会を求める。
当主の部屋の前に案内されると、言い争う声が聞こえて来る。
「マリー、落ち着くのだ。私とて仕方がなかったのだ」
「お父様、あの者はエリアリア様の……」
そこに案内してくれた執事さんが割り込む。
「ご当主様、お話しのところ誠に申し訳ございませぬが、クラウス準男爵殿がお戻りになられました」
「何! 生きて帰ってきたのか? まさかカードに不具合でもあったか!」
僕は執事さんに促されて当主の部屋に入る。
そこには、スタン侯爵とメイベルのサブマスがいた。
すぐに執事によりドアが閉められ、3人のみとなる。
◇◇◇
「クラウス! 無事だったか! お前が身代金の受け渡しに向かわされたと聞いて、私が代わりに行こうかと思っていたところだ」
「バカを言うでない、マリー。娘のお前を向かわせるわけがなかろう」
サブマスはスタン侯爵の娘だったのか。
そうだ、クロエ様のお顔が誰に似ているかと思ったら、マリー様に似ていたんだ。
髪の色もいっしょだしな。
「それで、クラウス、どうして戻ってきたのだ?」
「襲ってきた犯人を返り討ちにしました」
「バカな! 先の副騎士団長すら敵わなかったのだぞ!」
スタン侯爵が声を荒げる。
「その方たちの死因の一つに『死毒』がありませんでしたか?」
「なぜそれを……」
「僕も死毒を受けましたからね。ここに犯人の持っていた死毒のナイフがあります」
そして、僕は2人にジョージアから交換した禍々しい死毒のナイフを見せる。
「クラウス、後でそれを預かってもよいか? それとお前の知ることを全て話してくれ。もちろん父にも口外させない。お父様、クラウスの話が終わるまで黙っていて下さい」
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
恋人からもらったアイテムで窮地を脱する。
いいですよね、個人的に憧れる展開です。
マリーはクラウスとともに行動し、クラウスがエリアにとっての重要人物だという認識が強いので、身代金の受け渡しに向かわせたことに不満をもっています。
一方スタンはエリアのスキルやクラウスの重要さについて知っていますが、クラウスがただの平民なので犠牲にするのもやむを得ず、代わりはいるだろうくらいにしか思っていませんでした。
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