第55話 仕方ない犠牲 

 ディアゴルド邸がグレートドラゴンに襲われてから一夜が明けた。


 クロエ様の姿はどこにも見当たらなかった。

 屋敷の者には緘口令がしかれ、当然僕たちも対象だ。



 次の日、僕だけ当主のスタン侯爵様に呼ばれた。




「ふむ、よく来てくれた。そなたに追加の依頼を行おうと思ってな」


(この少年がグレートドラゴンを倒したというのか? だとすればもしかしたら生きて帰れるのかもしれんが……)


「どのようなご依頼でしょうか?」


「我が娘クロエが行方不明なのは知っておるな? 襲撃の混乱の最中に誘拐されたのだ。身代金を要求してきおった。そこで、マジックバッグに入れた身代金を犯人に渡してきて欲しいのだ」


(すまぬが、命の保証はない。他の誘拐事件で身代金を渡しに向かった者は例外なく死体になっておるからな。

 だが、今までの例からすると身代金を渡せば必ず娘は返ってくる。此度の襲撃でディアゴルドの警備も数が減ってしまったし、貴族の数を減らすわけにはいかぬ)


「なぜ私にご依頼なさるのですか?」


「犯人からの指定だ。一人で来いとな。そして来るのは必ず貴族でなければならないと」


(二人以上で行くと犯人は現れないのだ。それに……)


「私は貴族ではありませんが……」


「それは問題ない。準男爵の地位を用意できる。ノーブルカードも用意しておる」


(なぜか、貴族でない者を向かわせたら、見透かされたかのように犯人は現れず、貴族が向かうまで人質は戻ってこないのだ)


「…………」


(すまぬ、我が娘のためなのだ。娘が無事に帰ってきたらお主の家族の面倒はわしが必ず見てやる。だが、ここで断るならもう一人のミストラルとやらに依頼するか)


「……わかりました。その依頼を受けさせていただきます」


「そうか。依頼の報酬は白金貨1枚だ。明日の朝、犯人が指定するゆかりの森に行ってくれ。地図は後ほど渡そう」


(すまぬ、その報酬もおそらくは渡せぬのだろうな。せめて、今日の晩餐は豪華にしておいてやる)




 なんてこった。

 引き受けるしかないじゃないか。

 断ればミストラルさんが行かされるだろうから、そうなるとおそらくミストラルさんは死んでしまうだろう。

 僕が行った方がまだ生き残る可能性が高い。

 それに、断ったところで大貴族を敵に回したら、エリアに迷惑がかかるかもしれない。



◇◇◇



 スタン侯爵の記憶を読んだが、貴族の子女の誘拐は何年か前からたまに起こっていたらしい。

 今回のような襲撃に紛れての誘拐は初めてで、以前は一人になったところを誘拐されていた。

 そのため、最近は貴族の子女はほぼ護衛がつくようになっている。



 身代金を持参する者は貴族の地位を持つ者一人で、という指定が必ずされ、破った場合犯人は現れない。

 貴族の地位を持つ者が単独で向かった場合のみ、誘拐された人質は無事に帰ってきている。


 かつて、王都の副騎士団長を向かわせたこともあったが、物言わぬ死体となっていた。

 それ以降、貴族でない者にノーブルカードを持たせ、向かわせるという方法を取ることになったようだ。



◇◇◇



 スタン侯爵からは、【上級剣術Ⅲ】【上級体術Ⅰ】【中級火魔法Ⅴ】【ライフレスキュー】【睡眠耐性Ⅳ】と、HPの成長率、速さの成長率を交換しておいた。

 ちなみに侯爵は固有スキル【火と地の精霊加護】を持っている。

 最初から中級火魔法、中級地魔法を修得しており、火と地の魔法は消費MP半分で使えて、腕力と体力が+40%される。

 さらに火と地の属性攻撃の被ダメージが半分になるが、水と風の属性攻撃の被ダメージが2倍になるというものだ。



スキル

【上級剣術Ⅲ】(←【上級剣術Ⅱ】)

【上級体術Ⅰ】(←【生活魔法】)

【中級火魔法Ⅴ】(←【隠蔽Ⅲ】)

【ライフレスキュー】(←【腕力上昇Ⅲ】)

【睡眠耐性Ⅳ】(←【睡眠耐性Ⅰ】)




 死地に送られるのだからこれくらいはもらっておかないとね。

 スタン侯爵は僕を向かわせることに多少の罪悪感を覚えていたようだが、僕を死地に追いやる意志があることに変わりはないから【交換】スキルが反応したのだ。


 【ライフレスキュー】はHPが10%以下になった場合、10%になるまでHPが自動で回復するスキル。

 ギリギリ死ななければ何とか10%までHPが回復するが、そもそも10%以下の瀕死に追い込まれるような状況ならすぐに殺されるだろうからあまり意味のないスキルと言われている。

 それでも滅多にお目にかかれないレアなスキルだから、ついでにもらっておいた。



 夕食は個室に呼ばれ、貴族並みに豪華だった。

 侯爵の追加依頼を受けたあとミストラルさんとは隔離されていたので、とうとう何も話ができなかった。


 

◇◇◇



 翌朝、ゆかりの森に向かって出発する。

 身代金の入ったマジックバッグと白いノーブルカードを持たされて。

 これで僕は準男爵となったらしい。

 全然うれしくない。

 準男爵って貴族と平民の中間のような立場だったと思うんだけど、白いノーブルカード貰えるんだな。



◇◇◇



 ゆかりの森は、昼でも薄暗い不思議な森だ。

 暗殺しやすいからここが指定されたのかもしれない。


 渡された地図の通りに進み、受け渡し場所に着く。

 【探知Ⅲ】を発動し周りの気配を探る。

 




 シュッ、と左腕にわずかだが鋭い痛みが走る。

 草の葉で手を切ったときのような痛みだ。

 そして、少しずつ僕の意識がぼやけていく。

 ステータスをみるとHPがみるみる減っている。

 状態は『死毒』となっている。

 なんだこれは。


 霞みつつある意識を死毒に振り向けると、『継続ダメージを最大HPの250%に累積するまで与え続ける毒』とある。


 実質即死じゃないか。

 HPの減りが早すぎて回復魔法が間に合わない。



 ああ、エリア……




◇◇◇




 カラスのように黒い服を纏った金髪の男がどこからともなく現れた。


「死んだか。さて、マジックバッグを探すか」







◆◆◆◆◆◆

※番外編を書いています。

◆番外編 ギャングスター 1 ~ 3

https://kakuyomu.jp/works/16818093083567610939/episodes/16818093083568105068


 残念! 僕の冒険はこれで終わってしまった……


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 もちろん、クラウスは死んでいません。

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