第54話 ディアゴルド邸襲撃 

「グルゥァァァァァァァ!!!!」




 クロエ様と手合わせをした日の夜、ディアゴルド邸の中から突然魔物の咆哮がした。

 この声、聞いたことがある。

 王国武闘会でだ。

 すぐに装備をつけて外に出ると、本邸の近くが赤く燃えているのが見える。

 全力で走り近づくとグレートドラゴンの黄色い目が光っていた。




 まさか、またバリアブルケージから解き放ったのか? 

 とすればモンストーラーを持った誰かがいるはずだ。

 しかしこの暗闇では見つかるはずもない。

 仕方がない。

 今は目の前のグレートドラゴンをなんとかしないと。



 グレートドラゴンは、炎のブレスを吐き、爪で引っ掻き、尻尾を振り回している。

 巨大なのに鈍重さを感じさせない動きだ。

 警備部隊が応戦しているがあまり持ちそうにない。


「ミストラルさん、警備隊に回復魔法をお願いします。僕は後ろから全力で不意打ちします」


「わかりました」



 僕は【隠蔽Ⅳ】を発動しながらグレートドラゴンの背後を取った。

 これでおそらく【不意打ち】が機能するはずだ。

 ただ、僕には決め手になる技がない。

 王国武闘会のとき黒騎士カイが放った大技は、【上級槍術】に加えて、竜の腕輪というアクセサリーをつけている場合のみ使える。

 しかも使っていたのはおそらく神器と呼ばれるものだ。


 今の僕に使える最大の技は、上級剣術の『オーラブレード』だ。

 この技は、発動時に最大HPの10%を消費し、消費した分だけ威力を上乗せできる。


 メタルブレードを両手で持ち力をこめていくと、青白い闘気が剣を覆っていく。

 闘気は剣の3倍まで長さが伸びる。

 ちょっとした中距離技だ。

 僕はタンッ、と跳び上がりグレートドラゴンの右肩から斬り下ろしの斬撃を見舞う。


 見舞われた斬撃によりブシュゥゥゥと血飛沫が噴出する。

 が、致命傷にはならない。

 グレートドラゴンはこちらを向く。

 ここからが勝負だ。


 僕はすぐにアクアウォールを唱える。

 それを見たグレートドラゴンは炎のブレスを途中でやめて、体を捻って尻尾を振り回してくる。

 硬い鱗に覆われた尻尾は、水の壁を突き破りこちらに向かってくる。

 僕はメタルブレードとブレイズダガーを交差させてガードするが、大きな衝撃により5メートルほど吹き飛ばされてしまう。


 久々にまともなダメージを食らった気がする。


 続けてグレートドラゴンは鋭い爪を振り下ろしてくる。

 ガキン、と剣で受け止めるが中々の重量感だ。

 地面に足が少しめり込む。

 これまでのパターンだとまた剣が壊れそうだ。


 再びグレートドラゴンの爪が襲いかかってくる。

 今度は受け流しと剛力剣を同時に発動し、ドラゴンの爪を斬り飛ばしてやった。


 爪での切り裂き攻撃は、人間でいうと通常攻撃だ。

 その威力を落としたのは大きいが、まだもう片方の爪と尻尾と炎のブレスが残っている。

 

 左側をチラ見するとサイモンさん達が態勢を立て直している。


 グレートドラゴンは残った爪でまた襲いかかってくるが、さっきと同じく受け流しと剛力剣で爪を切り飛ばす。

 今度は大きく息を吸い込んで、炎のブレスが吐き出される。

 アクアウォールを唱える時間はない。

 僕はブレイズダガーを構えて防御する。


 吸い込む空気すら熱い。

 しばらくロクな呼吸もできず、ブレイズダガーで軽減しているはずなのにHPもそこそこ減らされてしまった。


「……天の加護のもと、邪悪なる傷を癒せ、スターライトヒール!」


 柔らかい黄色の光が僕を包み、HPが回復していく。

 ミストラルさんの中級光魔法だ。


「冒険者ごときに遅れをとるな! 我々はディアゴルド家の警備隊なのだぞ!」


 サイモンさんが生き残っている者を鼓舞している。

 次々と中級剣術が繰り出され、グレートドラゴンに傷をつけていく。


 さすがに煩わしく思ったか、グレートドラゴンの注意が僕から逸れる。


 これはチャンスだ。

 僕は再び【隠蔽Ⅳ】を発動し、グレートドラゴンの後ろに回る。

 あとMPは80くらいだ。

 オーラブレードはあと一回しか使えない。


 次で決めないともうサイモンさん達は保たないだろう。

 ミストラルさんも危険に晒されてしまう。

 ほとんどMPを消費しない光の矢を当ててグレートドラゴンに嫌がらせをしているが、これも時間稼ぎにしかなっていない。




 仕方がない。

 申し訳ないが、見逃したはずの【交換】をさせてもらう。

 対象は、偽物を売ろうとしてきた露天商のレベルだ。



レベル 28(←96)



 これで【弱者の意地】によりステータスが72%上がる。

 そして、今度もオーラブレードを発動。

 剣が青白い闘気で包まれる。

 今度狙うのは初撃で傷をつけた背中の真ん中だ。


 僕は軽く飛び上がり、傷を狙って突撃しメタルブレードを突き入れる。

 肉を貫いていく感触を感じたあと、硬い手応えがあった。

 これがグレートドラゴンの核だろう。

 さらに力を入れると、パキン、という音と同時に手応えがなくなった。


 グレートドラゴンの胸からメタルブレードの先端が飛び出し、ドラゴンは断末魔をあげながら光の粒子となって消えていく。

 そして、前のめりになって剣を突き立てていた僕は顔面から着地した。


 せっかく倒したのに最後が決まらなかった。




「大丈夫ですか、クラウスさん!」


 ミストラルさんが駆け寄ってくる。


「はい。回復魔法ありがとうごさいました」


「助かったぜ、冒険者よ。すまんが怪我人の救護を手伝ってくれるか?」



 サイモンさんに言われてあらためて周囲を見渡すと、何人も倒れている。

 綺麗に整えられていた庭園は無惨な焼け野原に変わってしまい、本宅も1/4ほど焼け崩れていた。


 崩れている場所は…… クロエ様の部屋だ。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 相変わらず行く先でトラブルが起きるのは主人公の特権だと思います。

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