第53話 ディアゴルド家の依頼 

「クラウスさん、なんだか最近妙に張り切っていますね」


「え? そうですか?」



 熱砂の高原を引き続き攻略しているが、エリアと会って以来、早くランクを上げようと思ったのが行動に出ているのかもしれない。

 遅れ気味な錬金術のレベルを上げようと、適当にポーションを作っていたら【中級錬金術Ⅲ】まで一気に上がってた。


 一週間熱砂の高原に潜り、もう少しで完了するかな、というところでエリアから依頼のあっせんがあった。



「ディアゴルド家から王都にある邸宅の警護依頼が来ております。期間は三週間です。貴族とのツテを作るよい機会だと思うのですが、いかがでしょうか?」


 ミストラルさんと話をして受けることにした。

 エリアのあっせんだしね。


「では、手続きを行います。カードをお願いしますね。…………カードをお返しします。依頼は3日後からです。直接ディアゴルド邸に赴き、警備担当者の指示に従ってください」


「わかりました」


 受付でのエリアの笑顔が少し柔らかくなった気がする。



◇◇◇



 3日後の早朝、貴族街の入り口でシビルカードを提示して、ディアゴルド邸での依頼のための入場を許可してもらう。


 整理された石畳にデコボコはなく、見える範囲にちり一つない。

 いったいいつ誰が掃除しているんだろうと思いつつ、ディアゴルド邸に向かう。

 時々すれ違う馬車を避けていくが、歩いているのは僕とミストラルさんだけで、たまに使用人らしき服装の人間を見るくらいだった。



◇◇◇



 地図の通り、ディアゴルド邸に着いた。

 警備責任者のもとに案内され、仕事内容の説明を受ける。

 大まかに言ってこの邸宅の外回り、内回りの見張りだ。

 ひたすら広いお屋敷なのでそれだけで半日がつぶれそうだ。

 そして、丸い魔道具を渡される。

 これがないと屋敷周辺の侵入者感知用魔道具に反応されてしまうそうだ。



 それから、ディアゴルド家三女クロエ様と顔合わせをする。

 長いストレートの赤い髪をしていて、11歳だそうだ。

 少し気が強そうでどこかで見たような顔立ちだが、思い出せなかった。

 ご当主はしばらくいないとのことで、また後だ。


 その日はさっそく当番通り外回りを終わって、寝泊まりする詰所に案内された。

 ミストラルさんと二人一部屋だ。

 依頼の期間中はディアゴルド邸から出てはいけないので、当分ここが拠点だ。



「ミストラルさん、お屋敷の中にこんな大きな詰所があるなんてすごいですね」


「ええ、ディアゴルド家は武門の誉れ高い貴族様ですからね。王家の信頼も篤いと聞いています」


「そうなんですね。クロエ様も武術ができるのかな? それにしてもクロエ様に似たような顔をどこかで見たような気がするんですよね……」


「クラウスさん、なんか色気づきましたか? 女の人に言及するなんて珍しいですね」


「そういうわけではないんですが……」



◇◇◇



 クロエ様が誰に似ているか思い出せないまま何日か過ぎたあたり、詰所に帰ってきたら他の部屋から話し声が聞こえてきた。

 酒でも飲んでるのかちょっと声が大きい。



「まったく、噂を真に受けて警備を増員するなんて、しかも冒険者たった2人なんて、意味ないんじゃねーの?」


「そうだよなあ。腕のたつB級らしいが、ディアゴルド家に仕える俺らより強いはずないもんな~」


「噂にしたって、ただの憶測だろ? ま、どこかの貴族が狙われてるかもしれねえが、こんな警備の厳しいところを襲うバカがいるかってんだ」


 どうやら僕らに依頼があった理由は、貴族が襲われるという噂を受けてのことらしい。

 依頼書には警備人員の一時的な補充としか書いてなかったけど。





 次の日、ご当主スタン=ディアゴルド侯爵様が帰ってきたとのことで面通しを行う。


「ふむ、警備ご苦労。契約期間中よろしく頼むぞ」


 紋切型の一言だけもらった。

 一応お顔を拝見したんだけど、これってエリアのいう貴族とのツテを作ったことになるのかな?

 詰所の人たちの態度からすると僕たちあんまり歓迎されてないみたいなんだけど。



◇◇◇



「ねえ、あなたクラウスっていうんでしょ? 剣は使えるの? あたしと少し剣を交えてみない?」


 当番の巡回を終わって詰所に帰ろうとするとクロエ様から声を掛けられる。


「えーと…… それはご当主様にお話しずみなのでしょうか?」


「そんなのいいじゃない。あとでお父様にあたしから説明するわ。あ、サイモンがいるわ。彼に審判をしてもらいましょ」


 クロエ様の目に留まった警備責任者のサイモンさんが呼ばれてきた。


「クロエ様、言ってもお聞きにならないでしょうから立ち会いますが、怪我しないようにお願いしますよ。おい冒険者、怪我させんなよ」


「わかりました」


 クロエ様と僕で模擬剣を構えて対峙する。


 構えが美しい。

 多分どこかの流派を習っているんだろう。

 僕はといえば、冒険者講座で手ほどきを受けたぐらいだ。

 そして、スキルが授けてくれる技でステータスの暴力をもって敵を斬ってるだけ。

 冒険者たる者どんな手を使っても最終的に生き残ればよかろうなのだ。



◇◇◇



 カンッ、カンッ、と打ち合いの音が響く。

 重さはないが鋭さを感じる。

 打ち合った感じだとクロエ様は【初級剣術Ⅳ】くらい持ってそうだ。

 さすが。

 僕が11歳のときは、スキルの解説本を読んでいたと思う。


 やがて、息切れしたクロエ様の動きが止まる。

 サイモンさんはやっと終わったか、という顔でクロエ様に声をかける。


「満足されましたか、クロエ様。お怪我はありませんね?」


「ええ、満足よ。クラウス、剣筋は素人なのに、一本さえ取れる気がしなかったわ。スキルのレベルはいくつなの?」


「えーと、【上級剣術Ⅱ】を持っています」


「へーえ、そんな風に見えないわね。あなた全然疲れていないじゃない。どう、ここで雇ってあげてもいいわよ?」


 これ断りたいんだけど、どう言えば角が立たないんだろう。


「クロエ様、それはご当主様がお決めになることですよ」


 よかった、サイモンさんが代わりに答えてくれた。

 クロエ様は『わかってるわよ』とだけ答え、そのまま去っていった。




 そして、その夜。




「グルゥァァァァァァァ!!!!」




 ティアゴルド邸で突如魔物の咆哮が響き渡り、僕とミストラルさんは飛び起きた。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 そろそろ貴族との関わりも必要か、ということでこの話です。

 テンプレの残念貴族もどこかで出したいな。

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