第52話 一年経ってた
ミストラルさんが無事B級になり、今日もブレイズナイトを危なげなく4回倒してシビルカードの更新を行った。
カードの下に手紙が添えてあった。
来週2人で会いませんか、というものだが、今回は必ず日を空けておいて下さいね、という言葉が加わっていた。
今更だが、この方法だと秘密のやりとりをしているようで、仲のいい感じがしていいな、と思っている。
ミストラルさんにその日とその前後は休みにしませんか、と言うと、
「そうですね。私は王都の見学でもしてきましょうか」
というわけで無事にメンバーの了解も取れた。
◇◇◇
熱砂の高原を時間潰しに攻略しながら、エリアさんと会う日がやってきた。
今日の僕の服は、前回の食事の帰りに渡された服だ。
派手さはないが、肌触りがとてもよい。
髪型も、前回教えられたのを出来るだけ真似してきた。
貴族ならこれくらいの服は着こなせないといけませんよ、とエリアさんは言っていたが、そもそも僕はS級にはなりたいが貴族になりたいわけではない。
なんだか堅苦しそうだし、
強い固有スキルを持っている者がそれ相応の働きをしろ、というのならわからなくもないが、貴族がみんな強い固有スキルを持っているわけでもないだろう。
手紙で指定された場所に行くと、エリアさんとメイベルのサブマスがいた。
ん? ということはサブマスもいっしょに王都に異動になったのかな?
そして、やはり馬車で貴族街に向かっていく。
エリアさんはどう考えても貴族だ。
お父様が軍の偉い人と言っていたから間違いない。
馬車で男女2人きりにするわけがないから、サブマスは護衛だろう。
2年前にメイベル支部に2人同時にやって来たのも説明がつく。
そうなるとわからないのが、なぜ貴族の子女がギルドの受付をしているのか、ということだ。
世間を知るため?
もしかしてエリアさんの固有スキルが関係するんじゃないか。
エリアさんの固有スキルってなんだろう?
いや、だめだ。
僕はエリアさんに助けてもらうまで自分のスキルを黙ったままだったくせに、彼女のスキルを知りたいなんて。
「クラウスさん、どうしたんですか?」
「いや、何でもありません」
◇◇◇
到着したのは、やはり豪邸。
サブマスと別れて、建物を案内され、衣装係の人に身だしなみを整えられる。
そして、エリアさんの準備が終わるまで待つ。
衣装係の人は無駄口を一切叩かない。
雑談とか持ちかける雰囲気じゃなかった。
大部屋に二人で入るとまず目に入ったのは、金色の刺繍が入った真紅のテーブルクロス。
真っ赤なグラスに、純白の皿、花瓶には今切ったばかりといえるくらい瑞々しい花が入っている。
なんだかパーティでもするようだ、と人ごとみたいに思っていたが、席についたエリアさんがこの光景を説明してくれる。
「クラウスさん、16歳おめでとうございます」
あ、そういえばそうだった。
「貴族は誕生の日を祝うのですよ。本来ならご家族をお呼びしてのパーティとしたかったのですが、それはまだ無理でした。私といっしょに過ごしていただけますか?」
「ええ、もちろんです。僕のためにありがとうございます」
それなら、僕も聞いておかないといけないことがあるな。
「あの、エリアさんの誕生の日はいつなのですか?」
「先月でしたよ」
「そうだったんですね。来年は僕からもお祝いさせてください」
「クラウスさんからならどんな形でもかまいませんわ」
それから、運ばれてくる食事をエリアさんといっしょにとる。
食べ方がよくわからないものはエリアさんに教えてもらいながらだ。
食事が終わったところで、執事的な中年の男性がエリアさんに箱を運んできた。
エリアさんは箱を受け取ると、男性は下がっていき、その部屋にいた給仕係の人たちもみんな部屋から出ていった。
食事を他人に見られながら、というのはあまり慣れていないので僕はちょっと気を緩ませる。
エリアさんは箱から開けて、中にあるペンダントを僕に見せてくれた。
これはレジストアミュレットといって、7色の宝石がリングの中に並んでいて、全ての状態異常にかかる確率を40%軽減し、状態異常にかかった場合でも40%効果を軽減する効果があるという。
エリアさんが僕にレジストアミュレットをつけてくれる。
つけ終わったあと、ふとエリアさんと目が合う。
次の瞬間、僕の理解を超えた事が起こっていた。
まあまあ高ステータスのはずの僕でさえ反応出来なかった不意打ち。
エリアさんの柔らかい唇が僕の唇に触れている。
僕の首の後ろに彼女の手が回されていた。
ああ、女の子ってなんでこんないい匂いがするんだろう。
僕はしばらくエリアさんのなすがままだった。
……やがて、エリアさんが僕から離れる。
「ふふっ、クラウス、私の初めてなのよ」
僕も初めてだ。
未遂があったような気がするけども。
「僕も初めてです、エリアさん」
「2人しかいないときはエリアと呼んでほしいわ」
僕は頷く。
そして、言わないといけない言葉がある。
女の子にここまでさせたのだから。
「エリア、僕はあなたのことがす……」
だが、僕の唇にエリアの人差し指が当てられる。
「ありがとうクラウス、とても嬉しいわ。でも、私の立場ではまだそれを受けられないの。……いつまででも待つから、S級に上がってお父様に認めてもらってほしいの」
◆◆◆◆◆◆
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
僕はエリアさんの前でペンダントをつけてもらっていたと思ったら、いつのまにかキスしていた。
な……何を言っているのかわからねーと思うが、僕も何をされたのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
手を繋ぐだけとか食事するだけとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと甘いものの片鱗を味わったぜ。
いつもお読みいただきありがとうございます!
未遂については23話「再びソロに」を参照です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます