第51話 熱砂の高原 

 熱砂の高原に入ると一瞬だけとても蒸し暑くなって、そのあと冷気が薄く体を覆って快適になった。

 うん、冷水の指輪はちゃんと働いているようだ。


 ただ、これだけだとまだ不十分だ。

 足元は砂なのでとても歩きにくい。

 これも一応対策があって、地面に水魔法をばらまけばしばらくは地面が固まるのだ。

 問題はそんなにMPがもたないことだが、僕なら大丈夫だ。


 最初に【中級水魔法】のアクアウォールを地面に向かって細長く展開する。

 その上を進んで行って、途中で魔物が現れたら斬って撃破してMP回復だ。

 ちなみに【攻撃時MP回復】と【撃破時MP回復】は重複する。



 出てくる魔物はサンドオークやレッドサラマンダー、ワームウォーカーなどだ。

 サンドオークの吐き出す砂煙は、状態異常の暗闇と同じ効果がある厄介な攻撃だ。

 しかも魔法じゃないので発動に時間がかからない。

 できるだけ食らわないように出てきたら真っ先に倒す。

 それでもたまに暗闇にかかってしまうが。



 初日は、転移陣のある13階まで到達して終わり。

 次の日に22階に差し掛かったとき、壁の向こうに対して僕の【トラップシーカー】が反応した。

 宝箱があるようだ。


 壁をメタルブレードでつついてみると、手ごたえは軽かった。

 空洞があるのは間違いない。

 強く剣で殴りつけてみると、ボロボロとちょうど扉の形に壁が崩れ去った。

 

 ミストラルさんと2人で入ると、後ろでピシン、と音がする。

 同時に宝箱までの間に突然大量の魔物が出現した。

 すぐに僕はアクアウォールを唱えて水の防壁を貼る。

 それまでの時間はミストラルさんの拡散弓で稼いでもらった。

 魔物が水の防壁でもたもたしている間に次の攻撃だ。


「……、母なる海より水波を呼び寄せん、アクアウェーブ!」


 部屋を覆わんばかりの水の波で目の前の魔物を一掃する。

 波が消えた後、50個ほどの魔石が残っていた。


「すみません、部屋丸ごとトラップだったとは…… 僕の【トラップシーカー】のレベルが足りなかったみたいです。宝箱の発見だけしかできませんでした」


「いえ、仕方ないですよ。それにまあ、モンスターハウスに比べれば少なかったですし。宝箱の罠をチェックして、中身を確認していただけますか?」


 お、危なかった。

 魔物を片付けたのに安心してそのまま宝箱を開けようとするところだった。


 開けた中身は、ミスティリングだった。

 とは言っても見た目がそうというだけで、【目利き】があるわけでもないので断定できないし呪われているかもしれないと考えると装備するのは怖い。

 ダンジョンから戻ったらウォーレンさんに見てもらおう。

 ポーションとかだったら僕でも見て分かるんだけどな。

 やっぱり【目利き】スキルほしいな。



 さらに、3日かけて最後の42階に到達。

 とうとうブレイズナイトとご対面だ。

 お供にバーストナイト2体。

 ブレイズナイトの兜の奥の赤い目がギラリと光り、僕の背丈と同じくらいの長さの紅に染まった槍がこちらを向く。

 ブレイズナイトが詠唱を開始し、バーストナイトは槍を構えてこちらに突進してくる。


 僕がバーストナイトを斬り捨て、ブレイズナイトのフレイムアローをブレイズダガーで受ける。

 その間にミストラルさんのフラッシュスピアの詠唱が完成し、ブレイズナイトにヒット。

 怯んだすきに近付いて清流剣で倒す。

 事前の打ち合わせ通りだ。



 宿舎に帰ってきて、ウォーレンさんに会える日を聞いてきてもらうよう管理人さんにお願いしておいた。


 次の日の朝、ウォーレンさんからいつでも来て構わない、という返事を管理人さんからもらった。

 仕事早いな。



 早速、ミストラルさんと一緒にクレミアン商会を訪れて、ウォーレンさんに面会する。

 サレンさんがお茶とお菓子を出してくれた。


「よう、どうした?」


「ウォーレンさん、実はダンジョンでミスティリングらしきものを宝箱から手に入れたんですが、【目利き】で見てもらえないかと思いまして」


「おう、いいぞ。……本物のミスティリングだな。呪いもない。なかなかいい物手に入れたじゃねえか。【レアドロップ率上昇】のスキルとか持ってたりしてな」


 その通りです、ウォーレンさん。

 初めて【レアドロップ率上昇】の効果を実感しましたよ。


「ありがとうございます、ウォーレンさん」


「どういたしまして、相棒。ああ、次からは一階の店員に言えばいつでもただで【目利き】できるようにしとくからな。いつでも俺の手が空いてるとは限らないしな」



 ミストラルさんがそれを聞いて少し驚いた。

 

「とても助かります、ウォーレンさん。ですが、無料でよいのですか? 本来はお金を取って【目利き】しているのでしょう?」


 え、そうなの⁉︎ 

 知らなかったよ。

 てことは僕はウォーレンさんにタダ働きさせちゃったの?


「すみません、ウォーレンさん。お金がいるとは知りませんでした」


「お、やっぱり知らなかったか。でも気にするなよ。前も言ったが先行投資の一環だ。早くS級になってくれよ」


 ウォーレンさんが笑いながらそう言ってくれた。


「頑張ります。ありがとうございました」



◇◇◇



 クレミアン商会を出てから僕はミストラルさんに聞いてみた。


「ミストラルさん、【目利き】してもらうのにお金が必要って知ってましたか?」


「はい。ウォーレンさんならクラウスさんの個人的な頼みでお金を取らないだろうと思ったので、クラウスさんに確認するのは後でいいと思っていました。でも、まさかずっと無料にするとは思わなかったので念のため聞いてみたんです」


「そうだったんですね。ウォーレンさんにただ働きさせちゃいました」


「【目利き】の行使については、店に料金表があるわけではなくて商慣習的なものです。別に使う側がただでいいと言えばそれでかまわないのです。いつかはクラウスさんも知ることになっていたでしょう。それで、ミスティリングはどちらが持ちますか? 私としてはクラウスさんが持っていた方が戦力が上がると思いますが」


「なら僕が装備しますね」



 この日はブレイズナイトを2回倒して終わり。

 次の日はお休みだ。


 その次の日、ミストラルさんの特別試験の結果を聞きにガルバリウム支部1階のC級受付に行く。


 結果は昇格だった。

 これでミストラルさんもB級だ。

 C級の間に僕と一緒にB級ダンジョンを攻略した実績は引き継がれるので、次の昇格は2人同時となるはずだ。

 帰還石も戻ってきた。 






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 ミストラルの特別試験は、普通に実力を見ただけです。

 受験料がやたら高かったり、事前の対策をとらせなかったり、突破率1割(実は嘘)と言ったのは、冷やかしを防ぎたい、とギルドが考えているからです。

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