第50話 異動してきたのは 

 王都のギルドの2階に顔を出したところ、とてもよく見知った顔がいらっしゃった。


「ようこそガルバリウム支部へ、クラウスさん。またお会いしましたね」


 エリアさんだ。

 いたずらが成功した子どものような笑顔だ。


「驚きましたか? 私も王都に異動になったんですよ。これからもよろしくお願いしますね」


「ええ、よろしくお願いします」


 ああ、ここに異動することが決まっていたから僕がメイベルから離れることを伝えても反応が薄かったのか。

 それなら教えてくれればよかったのに、と思ったが、エリアさんの笑顔を見たらどうでもよくなった。


 エリアさんとほとんど会えなくなるかな、と思っていたので正直なところうれしいし、ウォーレンさん以外知り合いがいないから心強くもある。


「エリアさん、ガルバリウム周辺のダンジョンの情報と、こことメイベル支部との違いがあれば知りたいのですが」


「王都周辺のダンジョンについては、こちらの冊子に簡単な情報が載っています。詳しいことを知りたい場合は、情報閲覧室までいらしてください。メイベル支部との違いは、冒険者のランクごとに窓口が分かれていることでしょうか。基本的な手続きに違いはありません」


「私からもよろしいでしょうか?」


 ミストラルさんも聞きたいことがあるみたいだ。


「特別試験を受けたいのですが、どのようにすればよろしいのでしょうか?」


「特別試験につきましては本部でのみ受け付けております。受験希望は随時受け付けていますが、受験料が必要です。合格すれば返金されますが、不合格の場合は返されません。詳細は本部の受付でお尋ね下さい」


「分かりました、ありがとうございます」



◇◇◇



 次は、ミストラルさんの特別試験の詳細を聞くために本部を訪れた。


 受験料は金貨1枚。

 代わりの物でも大丈夫。

 試験内容や実施日はギルド指定の試験官がその都度決めるので事前に分からない。

 また、受けた場合その内容を口外するのは禁止。


 試験官を決めるために、所有スキルやパーティでの役割の申告が必要。

 全てを伝える必要はない。

 

 と一通り聞いたところで、ミストラルさんが僕に聞いてきた。


「クラウスさん、受験料の代わりに帰還石を納めてもよろしいでしょうか? もし不合格ならしばらく私の取り分を減らして下さい」


 んー、どうしよう。

 ミストラルさんなら大丈夫な気がするんだよな。


 光の矢を撃ち放題なスキルもあるし、弓術、光魔法、状態異常耐性は全てあり、そしてレベルは少なくとも100近くはあるはずだ。

 なんせ僕と一緒に経験値を得ているからね。

 C級の上位がレベル70前後だから、僕の見立てでは、試験は大丈夫かな。


「はい、いいですよ」


「ありがとうございます。必ず受かってきますね」


 ということで、ミストラルさんは帰還石を渡して特別試験の申込をした。

 一応受付から、突破率は1割以下ですが本当にかまいませんか? と聞いてきたが、かまわず申し込んだ。

 なんと試験は明日だという。


 試験の内容はわからないので、事前の準備はできない。


 次の日、ミストラルさんといっしょにギルド本部に行った。

 そこから試験官とミストラルさんは会場に向かい、僕は一人だ。



◇◇◇



 2時間くらいしたあたりで、ミストラルさんが戻ってきた。


「クラウスさん、お待たせしました」


「ミストラルさん、どうでしたか?」


「うーん、多分大丈夫だと思います」


「そうですか」


 内容を口外してはいけないとなっているので、聞くに聞けない。

 結果は一週間後にC級受付の窓口で聞けるとのことだ。




◇◇◇




 王都に来ての初ダンジョンは『熱砂の高原』にすることにした。

 ここのボスはブレイズナイトだ、という理由だけで選んだ。


 名前のとおり、ダンジョン内は暑い。

 そのため、このダンジョン専用のアクセサリーが売られている。

 『冷水の指輪』だ。

 これは熱砂の高原が不人気ダンジョンだったときに、軍が開発したアクセサリーで量産化に成功して市井に流通させたため、今では安く手に入るものだ。

 


 ウォーレンさんから借りている冒険者用の宿舎から近くにある装飾品店『ダリの宝石店』で僕とミストラルさんの2人分購入した。



◇◇◇



 ダリの宝石店を出てしばらく歩いていると、怪しい雰囲気の露天商が声をかけてきた。


「よう、兄ちゃんたち、掘り出し物を買ってかないかい?」


 露天商を見てみると、ステータスが見えた。

 商品は、さっき買ったばかりの冷水の指輪などもあり、目玉として『ミスティリング』が置いてあった。

 これは詠唱時間を20%短縮する高価なアクセサリーだ。

 看板には『中古品につき品質は保証できません』と書いてある。

 価格はおおよそ通常の1/3程度。

 見た目は新品そっくりだ。


 だが、それより店主のスキルの方が驚きだった。


 固有スキルは【コピークラフト】。

 

 MPを100消費して自分が手にしている物をコピーでき、50%の確率で本物を作れるという。

 さらに、器用のステータスに+50%され、器用の成長率も高くなる。

 最大HPが30%減少もあるが、冒険者でなければたいしたデメリットではない。

 持っているスキルは、【生活魔法】【器用上昇Ⅲ】【体力上昇Ⅰ】【交渉術】【目利き】。


 うまくすれば大金持ちなんじゃないかと思うが、本業は成功したコピー品を正規の店に卸すことで、露店では失敗品(ただし見た目は変わらない)を置いて、【目利き】をもたない素人に売りつける、いわば趣味のようだ。

 

 店主の思考を覗いてみると置いてあるのは全て偽物らしい。

 もちろん買わない。

 試したいことがあったので悩むふりをして店長の器用の成長率を【交換】してみた。

 交換後は、僕と店主の器用の成長率が同じ、と出ていた。


 予想どおりだ。

 以前タケヤマと最大MPを交換したが、彼も固有スキル【最大MP2倍】があったから、MPが変わらなかったからな。

 固有スキルによる補正がある場合、僕が交換しても元に戻るから本人に影響はなく、僕だけ得するのだ。


 【交渉術】や【目利き】もほしいが、僕をだまして無理やり売りつけてくるようなら交換しようと思っていた。

 でも店主は引っかかればいいやくらいにしか思ってなかったので、結局交換はしないことにした。





 何も買わずに去った僕たち。


「クラウスさん、露店で買うものではないですよ。偽物をつかまされても、正規の店で買わないお前が悪い、と言われて当局にはとりあってもらえないですからね」


「そうなんですね、買わなくてよかったです。もし本物だったら、と思ってしまいましたが」


 思わず器用の成長率をもらったところで、明日から熱砂の高原に向かおう。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 露天商はあんまり強欲じゃなかったのでザマァにならずに済みました。

 クラウスは主人公にありがちな甘い性格です。いったん危害を加えられたらちゃんとやり返しますけどね。

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