第58話 後ろ盾
「クロエ! 無事だったか!」
「お父様! クラウス様に助けてもらったの。相手の攻撃を軽々と躱すクラウス様はとってもカッコよかったの!」
マリー様とともにクロエ様を助けてディアゴルド邸に帰ってきた。
「お父様、クロエを助けてまいりました。クラウスの言う通り教会の地下室に閉じ込められておりました。ただ、教会の者どもは誘拐犯のことも地下室のことも知らされておりませんでした。犯人の女も自害してしまい、教会への追及は難しいかと」
「何と…… クロエに関してクラウスの申していたことは本当だったか。クラウスよ、娘を助けてくれたこと誠に感謝している。この通りだ」
なんとスタン侯爵がロマンスグレーの頭を下げていた。
貴族様はそんな姿もさまになるものだ、と少々的外れなことを僕は考えていた。
「そんな、侯爵様、頭を上げて下さい」
思うところがあるけど、自分より遥かに年上で格上の人間に畏まられてもどうしていいか正直わからない。
侯爵様は頭を上げてから続ける。
「其方が死ぬと分かっていながら伏せて送り出したことも詫びよう。償いといっては足りぬかもしれぬが、報酬に加えて私が其方の後ろ盾となろう。何か有ればこのスタン=ディアゴルドを頼るのだ」
「お父様、ならクラウス様をディアゴルド家で雇いましょう! 私クラウス様といっしょにいたいわ」
そういってクロエ様が正面から僕に抱きついてくる。
11歳にしては力強い。
「クロエ、はしたないぞ。離れなさい。それと、クラウスは冒険者としての夢があるのだ。当家で雇うわけにはいかない」
「そうなのですか……。わかりましたわ、お姉様」
そう言いながらクロエ様はゆっくり僕から離れていく。
侯爵様は苦笑いを浮かべている。
「S級に昇格するための推薦人にも私がなってやろう。どこからも文句は出させん。しかしお主ほどの者がまだB級とは、ギルドは一体何を見ているのだ?」
「お父様、それはまた後ほど。今回の件を陛下に報告しなければなりません。だが、襲撃犯が死んでいるため教皇やスパイト王国との関連については、裏付けがないのです」
「それについてはやむを得まい。事実は事実として報告し、裏にいるであろう者についてはこれからの要確認情報として分けて報告するしかあるまい。あとは陛下のご判断次第だ」
「そうだ、クラウスよ、死毒のナイフを提出してくれ。今回の事件の重要な証拠だ。それに、国宝級で危険な武器だからな。無闇に人に持たせるわけにはいかぬのだ」
戦利品として持っておこうかな、とも思ったが黙って持っててあとからいらぬ疑いをかけられたら困る。
なんせ掠っただけでほぼ即死だからな。
こんな危険物、僕の手に余る。
厳重に保管しておいてもらったほうがいいだろう。
僕はマリー様に死毒のナイフを慎重に手渡す。
「クラウスよ、今回はとても迷惑をかけた。のみならず妹まで助けてもらい、感謝の極みだ。私からも何かあげられればよいが……」
「いえ、マリー様。お気持ちだけで十分でございます。それに、今回も私を信じていただいた上に命を賭けて教会まで同行していただきましたので、その信頼に勝るものはございません。……それで侯爵様、私からお話ししておかなければならないことがございます」
「クロエ、今日はもう下がって休め。疲れているだろう」
「わかりましたわ、お姉様。クラウス様、本当にありがとうございました」
クロエ様が部屋から出て行く。
「で、話とはなにかな、クラウスよ」
「侯爵様、私の固有スキルについては既にご存知かと思います。実は侯爵様が私に追加の依頼をなさったとき、既に侯爵様のステータスが見えておりました。そして、死ぬのをわかった上で私を指名したことも存じておりました。それで、……大変申し訳なかったのですが、そのときに侯爵様のスキルをいくつか【交換】していたのです」
僕は侯爵様と交換した内容を告げる。
そして、【ライフレスキュー】により文字通り命を救われたことも。
「お返しすべきなのでしょうが、今は侯爵様のステータスが見えないのでお返しすることができないのです」
「部外者を勝手に巻き込んだお父様の自業自得だ。クラウスが気にすることはないぞ」
「ふむ。【交換】していなければお主は死んでおり、今後の貴族誘拐も防げなかったであろう。教皇やスパイト王国の陰謀を防いだことを考えれば必要経費だったとも言えるな。儂とてクロエを救ったお主にいまさら悪意を持てぬよ。お主への報酬の先払いだったとでも思っておけ。これでこの話は終わりだ、よいな」
「はい、ありがとうございます」
◇◇◇
この後2週間ほどディアゴルド家に客人扱いで逗留することとなった。
ミストラルさんもパーティメンバーということで同じ扱いだ。
事の顛末を言える範囲で話すと、『本当に色々なことに巻き込まれますね。まるで物語の英雄みたいです』と言っていた。
誘拐事件の後始末で聴取を受けたり、クロエ様と剣のお稽古に付き合ったり、クロエ様が隙を見て抱きついてきたり。
サイモンさんに見つかっては引き剥がされていたけど。
クロエ様の剣術はディアゴルド流という、昔から続く由緒ある剣術とのことだった。
別に門外不出というわけでもないので、逗留している間は僕も手ほどきを受けさせてもらった。
基本的な型から始まり、一対一、多対一での戦い方など。
が、大部分は型の習得に費やされた。
決められた行動により、無駄を少なくし、体力の消耗を抑える。
スキルに頼らない動きはとても参考になった。
エリアも2回ほど会いに来てくれた。
僕のことをだいぶ心配してくれていたようだ。
マリー様が側にいたので話をするだけだったけど。
◇◇◇
諸々が落ち着いたようで、ディアゴルド邸を去るときが来た。
マリー様が竜の牙を模した鍔がある白く輝く直剣を携えている。
そして、その直剣を鞘に納めて僕に手渡してくれた。
「お前が倒したグレートドラゴンのドロップ品のドラゴントゥースから作り出された剣、ドラゴンブレイドだ。竜および大型の魔物に50%の特攻付きで、さらに地水火風の耐性20%付きだ。受け取ってくれ」
「ありがたく頂戴いたします」
まともに製作を頼んだらいったいいくらするのか、怖くて聞けない。
「父から必ず渡すようにと言われていてな。今日は王城に呼ばれているため、自分で渡せないことを残念がっていたぞ」
「私も逗留中たいへん良くしていただいたので、お礼を直接申し上げられないのが残念です」
「父さまには私から伝えておきますわ、クラウス様。ぜひいつでもいらしてくださいね」
そう言ってクロエ様は僕に抱きついてくる。
さあ、明日から熱砂の高原の攻略再開だ。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
スタンは悪意を持ったら【交換】されることを知っていましたが、直接手を下すわけではないから大丈夫だろうと思っていました。
まあ娘を助けるためなら自分のスキルくらいなら構わないと思っていたので、どのみち同じ結果ですが……。
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