第38話 王国武闘会 3  

 ヘブンリーウルフの鳴き声を聞き、エンペラーオーガもグレートドラゴンも我に返り、それぞれ目の前にいる者に襲いかかっていた。


 僕は【隠蔽】を発動しながらスピネルさんが相手をしているエンペラーオーガの背後に近づく。


 エンペラーオーガが棍棒を地面に叩きつけ、ドシンという音と共に小規模な地震を引き起こす。

 スピネルさんはその場で跳んで衝撃を回避している。


 僕も技の発動のためたまたまだが跳んでいた。

 そして、その落下の勢いのまま剣を振り下ろす。


「剛力剣!」


 エンペラーオーガは的がでかいので、これだけ隙のある技でもいけるだろうと思った。

 しかし寸前で気づかれて少し左にかわされ、右腕を斬り落とすだけで終わってしまった。


 ついでに、【不意打ち】が生えてきた。

 相手が強いとスキルが生えやすいな。



 右腕を落とされたエンペラーオーガは、迂闊にも僕の方に振り向いてしまった。

 そして、この機会を待っていたスピネルさんが自身の必殺技を繰り出す。


「ブランシェレイド!」


 いくつもの白い斬撃がスピネルさんから放たれ、最後は白く大きな十字型の斬撃がエンペラーオーガを襲う。


 しかし、背中から斬り刻まれ明らかに致命傷を受けたはずのエンペラーオーガはまだ消えずに後ろを振り返った。

 隙だらけだ。


「清流剣!」


 今度は僕の清流剣でとどめを刺す。

 エンペラーオーガは光の粒子となって消えていった。


「ちっ、【根性】もちだったか。いいところ持っていかれたぜ」


 体力に優れる上位の魔物は、致命傷を負っても一度だけわずかな体力で生き残る【根性】スキルを持っていることがある。

 まあ油断せず頭の片隅にでも入れておけば次の攻撃で片が付くから、大したスキルでもない。



◇◇◇



 次に僕はカイさんのところに向かう。

 だが、僕の加勢は要らなかった。


「ドラグーンスクライド!」


 カイさんが緑のオーラを纏わせた槍をグレートドラゴンに投擲する。

 投擲された槍はまばゆい緑色の光線と化し、胸の核に直撃した黄色いグレートドラゴンもまた光の粒子となって消えていった。


「操られていた時の行動が仇になったな。最強の攻撃ばかり繰り返すから肝心な時に息切れするのだ」


 さすがはS級。

 そして投擲したはずの槍がカイさんの手元に戻ってきていた。

 おそらくは神器だろう。

 僕も欲しい。


 周りを見ると、弱くなったヘブンリーウルフも討伐されB級の魔物も全て倒されていた。

 これでひとまずは落ち着いた。

 けが人の治療などで大慌てだが、いずれ増員があるから大丈夫だろう。


 それより僕にできることをやろう。

 ヴェインさんに声をかけた。



「ヴェインさん、今回の犯人を見ています」


「ならすぐに捕まえられるな」


「いえ、今日は既にスキルを使ってしまったので、明日以降です」


「そうか。どのみち常駐部隊も今日は動けないだろう。この有様だしな。その犯人は今どこにいる?」


「メイベルを抜け出して南のミラーノの街に向かっています」


「んで、そいつはクラウスに悪意を持っていたんだな」


「うーん…… というよりは、この場にいた全員に、という感じでしょうか。そしてその中に僕が入っていて、僕がそいつを見たから発動した、と思います」


「お前を直接認識していなくても発動する場合がある、ということか」



◇◇◇



「そこの少年、あらためて話を聞かせてもらおうか」


 と、スピネルさんが話に割り込んできた。


「これはこれはスピネル殿、緊急事態ゆえ碌な挨拶もできずに申し訳なかった。私は冒険者ギルドメイベル支部のギルドマスター、ヴェインと申します。こちらはギルド所属のC級冒険者クラウスでございます」



 おお、なんかヴェインさんが別人のようだ。



「このような事態なのだ、挨拶はいい。クラウスとやら、あの魔物が操られていたと言っていたな。確かに途中まで明らかに陛下のお命を狙っていたようが、なぜ操られていたとわかったのだ? どうやって動きを止めた?」


「それはこの……」


 僕が証拠となるひび割れたモンスト―ラーを取り出そうとすると、ヴェインさんが慌てて遮り、何やらスピネルさんに小声で話しかける。


「……それは後程将軍閣下に確認させてもらうぞ。では、場所を変えよう」


 ヴェインさんが何を言ったのかわからないが、僕はヴェインさんといっしょに軍の建物の空き部屋まで連れていかれた。

 つまり、僕の話を他の人に聞かれないように配慮してくれたのだろう。



「クラウスよ、先ほどの続きを話してもらおう。固有スキルに触れる部分は言わなくても構わない。言葉遣いも気にしなくていいぞ」


「ありがとうございます、スピネル様。魔物を操っていたのは、この四角い物体です。モンストーラーと呼ばれている魔道具でして、犯人がこれに魔力を注いで命令を与えていました。具体的な使用方法まではわからなかったので、力ずくで破壊し、魔物の動きが止まりました」


「ほう。魔物が突然現れた理由についてはどうだ?」


「犯人は、捕らえた魔物を出し入れできる魔道具を有しています。バリアブルケージと呼んでいるものが4つ。その魔道具から、闘技場に向かって魔物を解き放っています」


「どちらの魔道具も聞いたことがないな。危険物発見の魔道具に反応しなかったのか。警備責任者の罪を問えないな。して、犯人の名前は?」


「ノトリーと言います。スパイト王国出身で、この国を憎み、スパイト王国の命令で今回のテロ行為を行っています。今は南のミラーノに向かっていて、出国するつもりのようです」


「そこまでわかるならなぜ事前に捕まえなかったのだ?」


「私の固有スキルの発動の条件が厳しいのです。事前は無理ですが、明日であれば連れてくることは可能です」


「今から追えばよいではないか」


「ノトリーは【隠蔽Ⅳ】を持っていて、見た目を定期的に変えています。追わなくても私のスキルで確実に捕らえられるので、その必要はないかと思います」


「そのような方法があるなら是非わが軍に教えてもらいたいものだな。そうでなくても、エンペラーオーガの腕を斬り落とすほどの腕力だ。辺境軍に来れば即戦力だな」


「スピネル殿、それは……」


「わかっているさ。それで、明日捕らえるのだろう? 何か準備は必要なのか?」


「はい、でしたら……」




◇◇◇




 翌日、僕は軍の取調室に立っていた。

 周りには捕縛担当が3人、拷問担当が2人いる。

 あと、ヴェインさんにスピネルさん、あとなんかとても地位の高そうな方もいる。


「スピネルよ、この少年が例の……」


「はっ、ブラムス将軍閣下、C級冒険者のクラウスでございます」


 いったいどういう認識をされているんだろう。

 スカウトし損ねた人間を見に来たのだろうか。


「ではスピネル様、始めてもよろしいでしょうか?」


「お前のタイミングで構わんぞ。お前の行動は他言無用とするから安心しろ」


「ありがとうございます」




 そして、僕は【交換】スキルを発動した。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


【交換】する対象は、第6話で出てきています。

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