◆番外編 暗黒街の皇子 1 

「よう、いいところ紹介してやろうか?」


「いいところ、ってどんなところですか?」


「まともな娼館だよ」



 ウォーレンさんがC級に昇格し、パーティを解散してソロに戻ってしばらくしたあとダンジョンからの帰りにウォーレンさんにパッタリ会った。



「早いうちに経験しとかないとな、女の良し悪しがわかんねぇんだ。悪い女に貢ぎまくって挙句借金作って、金が取れないとなったら逃げられる、なんて珍しい話でもないのさ。恋は盲目ってな。現実を知っといた方がいい」


「世の中ってそんなに汚いものなんですか?」


「運良くそれを目にすることなく人生を終える人間もいるだろうよ。だがな、立派だと思われてた人間が色恋沙汰で後ろから情婦に刺されて死ぬ、なんてのは今でもあるんだ」


「……わかりました」


「俺の師匠がよく言ってたもんだ。『男は30まで遊べ』ってな。まあそりゃいいか。招待カード持ってるからやるよ。この娼館に行くといい。ここなら素人を騙すようなやつはいねえからな」


「ありがとうございます」


「ただし、娼婦に入れ込むなよ。向こうも仕事だ。こちらは女を観察する目を養うためで利害が一致しているというだけということを忘れるなよ。恋愛対象として見ていいのはそれ以外の女にしといた方がいい」


「気をつけておきます」




◇◇◇



 その日の夜、ウォーレンさんに教えてもらった娼館に向かったが、案内係の男によると今夜は運悪く空きがないということだった。


 仕方なく娼館を出る。

 ちょっと期待と興奮でドキドキしていたがそれもすぐには治らない。

 僕だって健全な男だ。

 そういうことに興味がある。


 

 隣にも娼館がある。

 ここなら空いてるかな。



「おう若いの、ツイてるな。今なら上玉が空いてるぜ。安くしとくから一発どうだい?」


 提示された金額はそう高くない。

 払える範囲にある。

 せっかく来たんだしここでいいか。



◇◇◇



 そして、ピンク色の部屋に案内される。

 そこには僕とあまり年齢が変わらないように見える豊かな体をした女性がいる。


 そして、その女性に言われるままに服を脱いで事に及んでいく。


 最初僕の動きはぎこちなかったが、途中から要領がわかってきた。

 要はリズムよく動けばいいんだ。



 実はこの女性、僕に含むところがあった。

 なので思考がわかるのだ。

 それを利用してどう動けば女が気持ち良くなるのかを探り実践していった。

 やがて僕も満足する。



◇◇◇



「ホントに初めてだったの? 信じられない。こんなに何度もイカされるなんて……」


 ベッドで息切れ切れの女が起き上がれずに何か言ってる。

 だけど、本番はこれからだ。



 部屋を出ると、黒服のゴツい男が二人待ち構えていた。

 『剛力無双』のヒュージスとタメを張れそうなぐらい筋肉がパンパンだ。



「満足したろ。さあ代金を払ってもらおうか」



 提示されたのは最初に受付の男が提示した金額と一桁違った。

 もちろん高い方にだ。



「最初の約束と違うんですが」



「言ったろ、上玉の女だって。そんな金で済むはずがねえだろ。さあ払いな。払えねえとは言わねえよな」


「相場を知らねえお前が悪いんだよ。勉強になっただろ? 払えねえならカイル帝国に売り飛ばしてやってもいいんだぜ」


 二人の男が畳み掛けてくる。


「王国に奴隷制はないはずでしょう」


「これだから世間知らずのぼっちゃまは! 帝国だと合法なんだぜ。お前を帝国に引き渡せば問題ねえんだよ」


「それが嫌ならこの契約書にサインしな。シビルカードも見せろ。借金しました、っていうだけの合法な契約書だぞ」


「いやです」


「分かんねえやつだな。まあ若いし痛い目を見ないと分からないか。教育してやるよ、世間の怖さをな!」


 勉強するのはアンタたちの方だ。

 ダラダラ喋っている間に既に必要な交換は終えてある。


 この二人の固有スキルは【用心棒】。

 そこから派生する汎用スキルに【カウンター】がある。

 【上級体術】も持っている。

 これもいただきだ。



「グハッ」


「ガフッ」


 交換した【上級体術】と【カウンター】を使って瞬く間に二人の男を地に伏せる。

 初めての情事の後で気怠いけど、これくらいなら簡単だ。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 ゴールデンウィーク用の特別編です。

 23話からのifルートです。

 ちょっと長くなったので分割します。

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