第37話 王国武闘会 2
「黒騎士カイよ、王国武闘会での闘い、見事であった。その栄誉を称えよう」
国王クロスロード=ティンジェルが貴賓席から降りてきて、黒騎士にメダルを下賜しようとした、そのとき。
「「「グルゥァァァァァァァ!!!!」」」
3体の魔物が突然闘技場に現れた。
オーガ、ドラゴン、ウルフだ。
その後にも50体ほどB級の魔物が現れ、ところ構わず暴れ始めた。
突然の魔物の出現に場内が騒然となるが、すぐに近衛騎士たちが王の前に立ちはだかり武器を構える。
遅れて、観客の悲鳴が響き渡る。
「キャアアアアアア!!!」
王族や貴族たちは専用の通路で退避していく。
市民はパニックになっていて、警備員が避難場所に誘導しているが遅々として進まない。
僕は、突如現れた魔物と逃げ惑う観客を目の当たりにし少しの間思考が止まっていたが、やがて脳みそが復活し、魔物たちと戦うことに決めた。
が、その前にエリアさんを逃さなければならない。
そう思ってエリアさんを見ると、いつの間にかサブマスが来ていた。
「クラウスも逃げるぞ!」
「いえ、僕はあの魔物達と戦います。サブマスターはエリアさんをお願いします」
「バカか! あの3体は全部S級だぞ! 死にたくなければ一緒に逃げるんだ!」
「マリー、大丈夫です。ここは彼の思う通りにさせましょう。クラウスさん、どうか無理はせずに。武運をお祈りしております」
サブマスがエリアさんを連れて行く。
そして僕はあらためて魔物のほうに向き直るが、その途中、逃げ惑う観客の中に不気味な笑みを浮かべながら立ったままの男が視界に入った。
僕はいったんマジックバッグを手放した。
それからしばらくして、マジックバッグの中からメタルブレードやハルモニアの鎧を取り出し装備して、闘技場に飛び出した。
◇◇◇
S級の3体は、現れた直後から退避していく国王を協力して狙っていた。
「エンペラーオーガに、グレートドラゴン、ヘブンリーウルフか…… どうしてS級の魔物がこんなところに突然現れたのだ? いや、とにかく陛下を守らねば!!」
辺境の守護者スピネルが気合を入れる。
彼といえども三体のS級を単独で相手するのは無理だ。
「黒騎士、ドラゴンを頼む! 俺はオーガを殺る。他の奴らはウルフを足止めしろ。増援が来るまで持ちこたえろ!」
「スピネル、これは貸しだぞ」
「生きていたら聞いてやる」
だがスピネルの思惑とは関係なく、3体は国王のみを狙ってくる。
スピネルやカイ達が攻撃を加えるが、意に介していない。
まるで誰かに操られているかのようだ。
グレートドラゴンの炎のブレス、エンペラーオーガの巨大な棍棒の一撃、ヘブンリーウルフの突進が執拗に繰り返され、国王を守る近衛騎士が少しずつ倒れていく。
国王は既に通路に入って姿は見えないが、3体ともその方向への攻撃を続けていた。
宮廷魔術師が回復魔法を連発しているが、それも追いついていない。
周りには空になったMPポーションが散乱している。
カイやスピネル達が攻撃を受け止めているが、防戦一方だ。
途中でカイのパーティメンバーや、出場者のパーティメンバーも加わるが、状況は好転しない。
「風障壁!」
カイは上級槍術の障壁技を使って自分と周辺への攻撃を遮っている。
「切り返し!」
スピネルは中級剣術のカウンター技を使ってエンペラーオーガの攻撃を返す。
しかし一向に怯む様子がない。
カイもスピネルも自分のMPの心配をし始めたあたりで、突然3体の行動が止まり動かなくなった。
何が起こったのかと警戒するスピネル達のところへ少年がB級の魔物を倒しつつやってきた。
「この3体を操っていた魔道具を壊しました。ですが、すぐにまた動き出すと思います。今のうちに各個撃破しましょう」
◇◇◇
観客の中に全く逃げる様子のない男を視界に入れた瞬間、僕はその男のステータスが見えた。
ノトリーという名前だ。
すぐさま思考を読む。
(B級50体は捨て石だ。だが、一般人を殺すには十分だろう。こんな国の者など死んでしまえ。そして、本命のあの3体をこのモンストーラーで操って、国王を殺してやる。くくっ、国の象徴である国王が死ねば任務達成で大出世だぜ)
やばい。
こいつテロリストだ。
モンストーラーってのはなんだ?
それでS級の魔物を操っていると言っていたな。
それを何とかしないといけないっぽいな。
ここでノトリーの所持品を意識すると、【交換】スキルが働いた。
僕の所持品と交換できるようだ。
でも、このままだと今の僕の所持品のマジックバッグと交換されてしまう。
そこで僕はマジックバッグを手放した。
すると、僕の所持品『なし』とノトリーのモンストーラーを交換できるようになった。
そしてスキルを発動する。
僕の手元に四角い物体が現れた。
これがモンストーラーか。
魔道具の一種だな。
魔力を込めると、あの3体と見えない魔力の線のようなもので繋がっているのが分かる。
その3体を見ると、陛下が既に退避していなくなった場所に向かってずっと攻撃している。
僕が新しく命令を与えていないからなんだろう。
だが、分かるのはそこまでで使い方が分からない。
ノトリーの思考を読んだら、突然モンストーラーがなくなったことに驚いて探しているが特殊な訓練が必要だから大丈夫なはず、と考えていた。
使い方については考えてくれないので、分からないままだ。
仕方がないので適当に魔力を込めてみる。
強さを変えたり、水、風、雷、光の属性を意識してみたりしたが、特に変化が起きない。
焦った僕はつい力を入れてしまい、モンストーラーにひびを入れてしまう。
すると、少し魔力の線が弱まったので、もっと物理的に力を入れてひびを増やすと、魔力の線が途切れた。
脳筋万歳だ。
それはともかく、あの3体を見ると命令がなくなり混乱したのか動きが止まっている。
だが、それも長く続かないだろう。
ノトリーはなぜなくなったかわからないが、このままだと自分が巻き込まれるかもしれないと思って、その場から群衆に紛れて逃げ出していた。
だが、コイツはあとでもいい。
今はB級の魔物を倒してカイさん達のところに行かなければ。
特別席から闘技場に降りた僕は、進路上にいるB級の魔物の残りを瞬速連斬で斬り捨てていく。
僕よりレベルが高く【弱者の意地】が発動しているのでただの雑魚だ。
ポーションや回復魔法で態勢を立て直しているカイさん達のところに着いた。
「この3体を操っていた魔道具を壊しました。ですが、すぐにまた動き出すと思います。今のうちに各個撃破しましょう」
「少年よ、どういうことだ? なぜここに来た?」
「スピネル殿、それは後だ。早く攻撃を再開したほうがいい。クラウス、こっちきて手伝ってくれ」
ヘブンリーウルフと対峙しているヴェインさんが僕を呼ぶ。
「クラウス、あいつは雷が弱点だ。んで、尻尾を切断すればA級並みに力が落ちる。できるか?」
「はい。……稲妻よ、我に雷鳴の力を与えよ、サンダーセイバー!」
そして、まだ止まっているヘブンリーウルフの尻尾目がけて清流剣を放つ。
尻尾を切断されたヘブンリーウルフはキャゥゥゥン、となんだか可愛い声で鳴き声を上げ、少し体躯が小さくなった。
「いいぞ、クラウス! あとは俺たちが何とかする。次はエンペラーオーガだ。背後からの攻撃に弱いから、スピネル殿が相手している隙を狙え。ドラゴンはカイが詳しいから指示を聞け」
「わかりました!」
僕は、ヘブンリーウルフの鳴き声で我に返って動き始めたエンペラーオーガに向かっていった。
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