第36話 王国武闘会 1
ゴールドラッシュを一回だけ攻略した後、クレミアン商会といっしょにメイベルに戻ってきた。
六つ子のゆりかごの封鎖はちょうど解除されていたので、さっそく続きから挑戦だ。
9階から進んで11階に着いたが、前回とは違って、道は広くなく、赤い線もない。
他の階と同じだ。
安心して先へ進める。
19階に到達して、今日はこれで切り上げだ。
このダンジョンのいいところは、最後の転移陣から最終階までが他と比べて短いところだ。
ボスと戦うまでの時間が短くて済むのだ。
そう思うのは僕だけかもしれないが。
翌日、19階から攻略再開。
僕は【隠蔽】【トラップシーカー】、セイバー系魔法を常に使い、トルテさんは出てくる魔物に対応した魔法を使い分け、ミストラルさんも光魔法と弓を使い分けている。
ボス部屋に着き少しだけ休憩したあと、ボスとのご対面だ。
今回はバーストナイトだった。
ブレイズナイトより少し小さいが同じ模様の鎧を装備しているように思える。
攻略の順番的には逆のはずなんだけどね。
そして、お供にフリーズウルフ、グランドワームに、ライトソウルがいる。
ここでも属性がバラけていて、嫌がらせは徹底している。
瞬速連斬でお供を斬り裂く。
その間にトルテさんとミストラルさんがそれぞれ魔法をボスに当てる。
技や魔法は空撃ちするよりは実際に当てたほうがレベルが上がりやすいと言われている。
熟練度が早く溜まるということだろう。
その後、僕がバーストナイトを清流剣で斬り捨てる。
今の僕は【弱者の意地】こみで腕力が1600くらいある。
かつて【剣聖】のスキルを持っていて魔法すら斬って捨てたと言われる昔の騎士団長が腕力1800だったと伝わっているので、僕はそれに迫っている。
ただ、昔のことで眉唾ものだという人もいるので参考数値なんだけれども。
◇◇◇
転移陣で一度外へ出てからまた転移陣で19階へ。そしてボス部屋に。
面倒だが、ダンジョンが冒険者の魔力を記憶しているようで、いったんダンジョンの外に出ないとボスが現れないようになっている。
今日は6回ボスと戦った。
火のバーストナイトに、水のフロストメイジ2回、闇のブラックゴースト3回だった。
特にやることは変わらない。
夕方、ダンジョンから戻ってきてギルドでカードの更新をしたら、また手紙が添えてあった。
◇◇◇
内容は、来月開催される王国武闘会を一緒に見に行きませんか、というものだ。
チケットは抽選だが、エリアさんが申し込むのでそのへんは任せてもいいようだ。
チケットが取れたらまたお知らせします、とあったが、なんというか、僕が断らない前提なんだな、と思う。
断らないけどさ。
ミストラルさんとトルテさんに王国武闘会のある週はダンジョンをお休みにして自由行動にしたい、と相談したら特に何を言われるでもなく了承してもらった。
エリアさんから手紙をもらって3週間後、王国武闘会の開催日がやってきた。
それまでの間、僕たちは六つ子のゆりかごを81回攻略していた。僕のレベルも57まで上がっている。
◇◇◇
王国武闘会は、王国全土を対象に腕自慢を募って行われる。
個人戦とパーティ戦が年ごとに交代で開催されていて、今年は個人戦の年だ。
優勝者と準優勝者には、名誉と賞金と望めば士官する権利が与えられる。
この大会のみ公的に賭博が許されており、その賭け金を原資として賞金が出る。
大会に出場できるのは100人まで。
申し込みは冒険者ギルド基準でB級以上の実力を有していると認められる者。
そこから魔道具のレベル計測器でレベルを測り、上から100人のみが予選に出場できる。
100人が4ブロックに分けられ闘技場で競って各ブロックから2人を選出し、8人でトーナメントの本選となる。
僕はもちろん、出場できない。
例外は誰か偉い人の推薦状があればいい。
申し込みの締め切り前にエリアさんが『出場したいのですか?』と聞いてきたが、頼んだら本当に何とかしてくれそうだったので、怖くて『見るだけでいいです』と答えていた。
エリアさんが手に入れたチケットは決勝戦の特別席だった。
王族の観覧席に最も近い場所だ。
それ以外は、料金を払ってすし詰めの一般の観覧席か、屋外に設置される映像を映し出す特大の魔道具で見るかのどちらかだ。
例年僕は家族といつも屋外で屋台から見ている。
母の勤めている薬屋がいつも席を確保してくれているからだ。
初日の予選は、優勝候補の『黒騎士』カイが目玉だ。
一昨年の優勝者でもあり、10人いるS級の一人だ。
フルフェイスの黒鎧で、中の人は美男子とも言われているが、素性を知る者はほとんどいない。
1ブロック25人が闘技場に集まり、そのまま予選開始だ。
この中で2人に減るまで延々と25人が闘い続ける。
闘技場には特殊な魔道具により『ライフフィールド』が張り巡らされている。
出場者はライフフィールドと対になる『命の指輪』を着けていて、HPがゼロになると場外に転送される。
命の指輪の効果により指輪をつける前の状態に復帰できるので、武闘会で命を落とすことはない。
黒騎士が青い槍で他の出場者を次々と薙ぎ倒していく。
直接当たらなかった者も吹き飛んでいるところを見ると絶風槍あたりでも使っているのだろう。
この日は、黒騎士ともう一人、赤い道着の男が残った。
3日目は、もう一人の優勝候補と言われる『辺境の守護者』スピネル=サンバッシュが登場だ。
実力は折り紙付きだ。
何せ、王国の東に広がる『魔の聖域』からの魔物の侵入を防いでいる辺境軍の中でも最強と名高いのだ。
魔の聖域の魔物は弱くてもA級以上の強さがあり、深部にはS級がごろごろいる。
そのため、防衛し魔の聖域が広がらないようにするのが精一杯だが、この魔の聖域が間にあるため、東のカイル帝国と国境を接しなくてすんでいる。
彼の持つ白い剣で次々と敵を倒して、辺境の守護者は本戦出場を決めた。
決勝までの試合も全て見たが、やはり見るだけでもなかなか面白い。
強力な固有スキル同士の戦いは派手でエンターテイメント向きだ。
今年僕が見ていて楽しかったのは、トリプルスペルを放っている選手だった。
3種類の魔法を取得していること自体も凄いし、同時に3つ放てるのも見た目にインパクトがある。
火水光で綺麗な3色を描きながら飛んでいく魔法。
詠唱はどうやっているのかとか、消費MPはどれくらいいるのかとか、何かデメリットはないのかとか、とても気になる。
残念なことに、その魔法使いは本戦の最初で負けてしまったが。
決勝戦はエリアさんと一緒に特別席で観戦だ。
特別席は貴族と平民で一応仕切られていて、僕とエリアさんは貴族と平民のちょうど境目の席だ。
会場に入る前に危険物を探知する門型の魔道具をくぐっていく。
マジックバッグについては、中身を見せておいた。
対戦はカイとスピネル。前評判通りだ。
青い槍と白い剣がぶつかり、火花が散る。
鍛えられた技の応酬は手に汗を握る。
なんだか手があったかいな、と思ったら、エリアさんの手が僕の手と重なっていた。
思わずエリアさんを見ると、いつもの笑顔があった。
僕だけ照れてるようで少し恥ずかしかったので、また闘技場のほうを向いて、試合を見ることにした。
あとなんか王族のいる貴賓席から刺すような視線があった気がしたが、多分気のせいだ。
激戦の末優勝した黒騎士カイが、国王陛下から名誉のメダルを受け取ろうとする段になって、事件は起きた。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
やはりテンプレのバトル大会ですね。とは言ってもクラウスは戦いませんけど……。
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