第39話 帰ってきたら  

side スピネル=サンバッシュ


 クラウスが王国武闘会の犯人を連れてくることができるというので、スピネルはメイベルの取調室でギルドマスターのヴェインやメイベル治安担当の将軍らとともに待機していた。


 そしてクラウスが【交換】スキルを発動したあと、クラウスのいた場所に青年が立っていた。

 その容姿はクラウスから聞いていた通りだ。


「「「バインドチェーン」」」


 その場で待機していた捕縛担当3人がすぐさま【捕縛術】のスキルを発動し、3方向から黒い鎖でノトリーの体をがんじがらめにする。

 ノトリーは何が何だかわからず呆けている。

 そして、所持品を奪われたことに気づいてようやく声をあげようとするが、バインドチェーンの効果により声を出せない。

 これは発声を条件とするスキルや魔法対策だ。


「ありました。赤い下地に金色の網目模様の球が4つです」


 所持品を調べていた捕縛担当がスピネルに告げる。


「これで確定か。半信半疑だったが、本当だったな。これほどの固有スキル、そしてあの攻撃能力。いつか手合わせしてみたいものだ」


「ですがスピネル殿、彼はまだ冒険者になって半年ほどです。辺境で実戦を重ねるあなた様には及びますまい」


「……そうかもな」


 機嫌を伺うかのようなヴェインの言葉にもスピネルの反応は薄かった。




 一方、ブラムス将軍は顔をしかめてノトリーを見ていた。


「モンストーラーとこのバリアブルケージ。いずれも聞いたことのない魔道具だな。王宮の錬金術師に送って分析させねばな。こんなものをスパイト王国が大量に開発していたとしたら一大戦力になる。王国の危機かもしれん。拷問官よ、一刻も早くこの者から全て聞き出すのだ!」


「はっ!」





◇◇◇





(無事成功してよかった……。大見得切っといて失敗したら冗談じゃすまないよね…… 久しぶりにすごく緊張した……)


 【交換】でノトリーとした僕は、街道の真ん中にいた。

 代わりに、ノトリーは僕がいた軍の取調室にいる。


 そして、北にあるメイベルに向かって出発する。

 ノトリーは結構早足だったようで、僕は1日ではメイベルに戻ることはできず途中の旅小屋で一泊してから戻ってきた。

 ついでに、ノトリーから【隠蔽Ⅳ】をもらっておいた。


スキル

【隠蔽Ⅳ】(←【生活魔法】)



 翌日の午後になってメイベルに戻ってきたあとは、軍に呼ばれるまでギルドか自宅かどちらかに必ずいろ、と言われていたので家に帰ると、なんとエリアさんが待っていた。


 エリアさんは、僕が武闘会テロ事件に巻き込まれており、そのため少しの間軍に呼ばれることを僕の家族に説明に来てくれていたとのこと。

 リビングで僕の母や妹と仲良く談笑していた。


「あら、クラウスお帰りなさい。大変だったんだってねえ。エリアさんが教えてくださったのよ」


「ただいま、母さん。エリアさん、すみませんお手数をおかけして。無事逃げられたようで何よりです」


「クラウスさんも無事でよかったです」


 そのあと、4人で当たり障りのない会話をしていたが、


「クラウス、ちょっとミリアとお出かけしてくるから、留守番をお願いね」


「え、ちょっと、母さん、ミリア、どこへ行くの?」


「いってらっしゃいませ、、ミリアちゃん」


 そそくさと母とミリアが出かけていった。

 ナチュラルに我が家に溶け込んでいるエリアさんすごい、と思っていたら、エリアさんから声を掛けられる。



「クラウスさんのお部屋を見せていただけませんか?」


「かまいませんけど……。あ、ちょっと片づけてくるので少し待ってもらえませんか?」


「いいですよ」


 慌てて2階の僕の部屋に上がって、軽く掃除する。

 といっても生活魔法の【クリーン】をかけるだけなんだけど。

 あとは見られてまずいもの……、はそもそも持ってないな。

 うん、大丈夫だ。



 エリアさんを僕の部屋に案内する。

 女の子を部屋に入れるなんて何年ぶりだろう。

 小さいときは母の勤めている薬屋の女の子が遊びにきていたけど、こんな綺麗な女性を招くのは初めてだ。


「きれいにしてらっしゃいますのね」


「だいたい日中はダンジョンに潜っていますから、ほぼ寝起きにしか使っていないんですよ」


「本もたくさん…… 『冒険者必携』、『永遠の回廊の謎に迫る』、『フロンダールの冒険1~5』、『絵でわかる! スキルの種類と使い方講座』、『初級錬金術の初歩』…… 『恋愛ゼミナール』?」


「えっ、あっ、その、人生には恋愛経験も必要かなって思った時期があって……」


「ふふっ、男の子ですものね。興味があって当然ですわ」


 中身は女性の視点から書かれた恋愛に関する本なのだが、何となく恥ずかしい。

 隠しとけばよかった……。


「クラウスさん、座りませんか?」


 エリアさんに手を摑まれ、ベッドに並んで座る。

 手はつなぎっぱなしだ。


「クラウスさん、私のことどう思っていますか?」



 あれ、こういうときなんて答えるんだっけ。

 『恋愛ゼミナール』に書いてあった気がするけど、残念ながら思い出せない。


 そんなことより、エリアさんからかすかに甘い香りがしてくる。

 今は隣り合って座っているからいつもより距離が近い。

 ドキドキする。



「美人で、笑顔が素敵だと思います」


 かろうじてエリアさんの顔を見てやっと言えたのがこれだ。

 目を合わせるなんてとてもできない。

 なんか違うことを考えねば。

 いやでも無理だ。

 こんな美人が僕の部屋にいて、ほのかに甘い香りがして……



 ああ、そういえばサレンさんのときとは香りが全然違うな。

 あのときはやたら濃い匂いがしていたな。

 エリアさんのは薄くて優しい感じがする。

 それと、エリアさんのステータスは見えない。

 サレンさんのような打算的な考えがないということか。



「む、クラウスさん、他の女の子とかスキルのこととか考えていませんか? 目の前のことに集中してください」



 僕がサレンさんに忠告したのと同じ言葉を言われている。



「すみません……。もしかして僕の心を読めるんですか?」


「そんなスキルなんて持っていませんよ。でも、当たりだったようね。何を考えていたか、いつか話してもらいますからね」


 これが女の勘ってやつなのか。

 ずばり当たっているじゃないか。



「「…………」」



 何となく沈黙の時間が続くが、気まずいわけでもない。

 なにか会話をしなければ、と思っていると、


「「ただいま~」」


 と、母とミリアが帰ってきた。


「お菓子の時間にしましょう~」


 僕とエリアさんは一階のリビングに降りていく。

 途中までは、手をつないでいた。



◇◇◇



 お菓子と飲み物を囲んで、再び4人で他愛もない話をする。


「そろそろお暇させていただきますね。あ、伝え忘れておりました。クラウスさん、明日の夕方前にギルドに来てくださいね」





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!



 武闘会の後始末にかこつけて外堀を埋めにくるエリアでした。

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