第32話 エリアの暗躍 

 クラウスがブラッドグリズリーの一斉討伐依頼を終えた2日後まで遡る。



◇◇◇



 ギルドマスターのヴェインはギルド内の自分の部屋で書類と格闘していた。


「このめんどくせえ仕事なんとか減らねえかなあ。マリー殿が来てくれたから前よりは減っているんだけどさあ」


 ヴェインはあまり得意とは言えない書類をめくりながら内容を確認しサインをしていく。


「ん、何だこれ。軍のスカウトか。ここ最近軍のお眼鏡に叶うやつは見ていなかったが…… さあて幸運を掴んだのは誰かな…… ってクラウスかよ‼︎」


 ヴェインは思わず独り言の声が大きくなった。


(そういや軍に目をつけられていたな。B級にも優秀なヤツがいたはずなんだが……  いずれこうなる運命だったのか。だが、これをエリアリア様がお認めになるとは思えん。まだご存知でないのか? すぐにお知らせしなければ!)


 ヴェインはすぐに隣のサブマスターの部屋でマリーに話をし、マリーは急いで一階の受付に降りて行きエリアを探した。


「エリア、ギルドマスターがお呼びだ」



◇◇◇



 ギルドマスターの部屋に、ヴェイン、マリー、エリアが揃う。


「エリアリア様、マリー殿、お呼びだてしてしまった無礼をお許しください。ですが、こちらをご覧いただければと」


 ヴェインはマリーに5枚の紙を渡す。

 さらに、マリーからエリアに書類が手渡される。


「…………! これは…… 軍の目に留まるとは、さすがね。そして、現地でステータスの確認もされている、と」


「エリアリア様、メイベルの常駐部隊には相手の行動時に関連するステータスを見ることができる固有スキル持ちがいます。おそらくそれで確認したかと。その固有スキルでは、スキルの有無は確認できませんから、彼の【交換】については知られていないと思われます。軍に所属させたのち、確認するはずです」


「申し訳ございません、エリアリア様。ギルドの記録を偽るわけにはいきませんので」


「ヴェイン、仮にできたとしてもギルドの信頼に関わるから無理な話ね。あなたの責ではないわ」


「いかがなさいますか、エリアリア様。今から彼を囲いますか?」


「そうせざるを得ないわね…… もっと後になるのかと思っていたけれど。父上にお願いして止めてもらうわ」


「エリアリア様、私はいかがすればよろしいでしょうか?」


「マリーに預けておいて。こちらから手を回します」


「承知いたしました」




◇◇◇


 


 さらに2日後のとある豪華な部屋。


「お父様、お願いがあります」


「それはエリアのスキルによるものか?」


「はい」


「なら聞かねばなるまい。で、今度は何をしなければならないのだ?」


「メイベルの都市常駐部隊が今行おうとしている冒険者ギルドからの引き抜きをやめさせ、資料も完全に廃棄させて欲しいのです」


「……そんなことが国のためになるのか。ギルドからの引き抜きなど些細なことではないか」


「お父様、その者は一部のステータスで既に騎士団長に迫っています。その上、特殊なスキルが発動した場合は上回るでしょう。ですが、軍には馴染まないかと。将来的に私の近くに置きたいと存じます」


「一介の冒険者にえらく入れ込んでいるではないか。まさか私情が挟まれているのではあるまいな。その者の情報を渡せ。判断はそれからだ」


「もちろんです」




 そして、エリアは切り札を切る。




「お父様、私のスキルで最近判明したことがありまして」


「なんだ」


「私のスキルに従わない行動を取った場合、それまでに得てきた恩恵の倍返しで不幸が降り注ぎます」


「……それは『鑑定の宝珠』では示されていなかったことだな。『真実の宝珠』を使って確認するぞ」


「もちろん、かまいませんわ。偽りを述べてなどいませんから」




◇◇◇




 次の日、用意された真実の宝珠の前にエリアが座る。


「メイベル常駐部隊の引き抜きをやめさせることはスキルに従うところか?」


 エリアが宝珠に手をかざすと、青く光る。

 嘘をついていない証拠だ。


「スキルについて新しく判明したことは本当か?」


 エリアが宝珠に手をかざすと、青く光る。


「……わかった。エリアの言うことに従おう。だが、私とて何の根拠もなく命を下すわけにはいかんのだ。たとえ外に示す必要がないとしてもな」


「承知しております」


「これで終わりでもかまわんが、もう一つ確認したいことがある。ここには私とエリアしかおらん。かまわんな?」


「ええ、かまいません」


「引き抜きを止める件について私情はないな?」


 エリアは少しためらったあと、宝珠に手をかざす。

 ちなみに嘘をついている場合、宝珠は赤く光る。



「……そうなのか。相手はただの平民だろう。S級になれば過去に例がなくはないが、相手に覚悟はあるのか?」


「いえ、まだ私のことをほとんど伝えていませんから」


「エリアを欲しがる者は山のようにいるぞ。将来有望な者もたくさんいる。まさか今まで婚約者を選定しなかったのは……」


「ふふっ、この先の楽しみにとっておいて下さい」


 


◇◇◇




 そして、ヴェインにクラウスを呼び出させ、クラウスの意志を確認する。

 もちろん、冒険者を続けたいのが彼の意志だ。




◇◇◇




 さらに数日後、メイベル都市常駐部隊の隊長室にて。


(全くいつまで待たせるのだ。スカウトの書類を止めさせるなど、今度はどこの貴族の道楽だ? 全く軍の重要性を分かっておらん。誰が治安維持をしている? これほど国に忠誠心を持つ存在が他にいるのか? 早く彼の者を育てたいというのに……)


「将軍閣下、王都より使者がお見えです」


「うむ」


 隊長は入室した使者から書類を受け取る。


「……これは! 大将軍閣下からとはいえ、ご無体な!」


「閣下ならそうおっしゃるであろうとのことで、伝言をお預かりしております。『月と剣の紋章に従うべし』とのことでございます」


「この任務、全力をもって遂行させていただく所存である」


(月と剣の紋章はこの王国で最も高位の者にしか使えない。忠誠心が高すぎるとこうなるのか……)


 使者は内心で手のひら返しの早さに感心していた。



 将軍の熱心な仕事ぶりにより、クラウスの引き抜きに関連する資料はきれいさっぱり消去され、関わった者にはかん口令がしかれ、無かったことになったのだった。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 エリアが動いていました。

 縁の下の力持ち的な感じでしょうか。

 軍のスカウトネタは、番外編マリールートでもありました。

 ただ、貴族が私兵に採用したい場合、そこから横槍を入れることもあります。

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