第33話 モンスターハウス 

 適当な依頼をこなしたあと、次のダンジョンは、『六つ子のゆりかご』に行くことにした。


 六つ子のゆりかごは全21階で、4,9,17,19に転移陣がある。

 このダンジョンは日ごとに各階の属性が地水火風光闇のどれかに変わり、魔物も属性に従ったものしか出てこない。

 ボスについても、どの属性のボスが出てくるか部屋に入らないとわからないという有様だ。


 言うまでもなく、不人気ダンジョンだ。

 事前の準備が困難すぎるからだ。

 さらに言うと、9階から17階まで転移陣がないので、下手すれば途中で力尽きて死ぬ可能性すらある。


 帰還石というのがあって、使い切りでダンジョンの入り口まで戻れるが一個でC級の年収くらいはするのでなかなか買えない。

 一個で一人しか効果がないので、パーティ人数分揃えるのもしんどい。

 一応C級ダンジョンの宝箱から出始めるが。


 【中級錬金術】で作れるので、僕もいつか錬金術のレベルを上げて作ってみたいと思っている。

 

 こういうアイテムや魔道具を自分で作れるようになったら、自分で作って売れば大儲けだ、と思って母に聞いたことがある。

 しかし、錬金術ギルドへ登録しないと勝手に販売してはいけないそうだ。

 自分で作って自分で使う分には必要ないが。


 昔、同じことを考えて実行し、適正価格の1/5くらいの低価格で売り捌いた者がいた。

 同業者があらかた撤退したあとで、値段をつりあげて販売し一財産築いた。

 当然こんなやり方が続くわけもなく、国から問題視された上に恨みを買った同業者に殺されたそうだ。


 結局今では販売に登録が必要となり、極端な価格での販売は認められないことになっている。


 まあ、僕には販売網がないからできないんだけどね。

 冒険者ができなくなったらウォーレンさんを頼ってみるのもありかもしれないけど。



 

◇◇◇




 1階は水の魔物が出てきた。

 フリーズクロウや、アイスオークなどが出てくる。


 トルテさんが水属性に強い【初級地魔法】のストーンバレットを撃ってから、僕が攻撃する。

 このダンジョンからは、トルテさんのスキルレベルをさらに上げたいというので、しばらくこの形でいくことにした。

 ミストラルさんは、【探知Ⅰ】が生えてきたというので、探知役を任せることになった。

 僕は、【隠蔽Ⅲ】【トラップシーカーⅢ】を常時使いつつ、水属性と強弱関係にないエアセイバーで風魔法のスキルレベルの上昇を狙うことにした。

 


 2階はフレイムオークやサラマンダーが出てきた。

 ここはトルテさんがウォーターボール、僕はアクアセイバーで対応だ。


 まあ、どの属性だったところでどうせ全て一撃だ。

 無事に9階までたどり着いた僕たちは、今日はここで終わりとした。




 翌日、9階から再開だ。


 11階に進んだ途端、今までと雰囲気が変わった。

 こうピリピリする感じだ。

 なのに、魔物の気配が薄い。


「ミストラルさん、なんだか変な雰囲気がしませんか?」


「ええ、なんだか静かすぎますね。道幅も今までと違って広いですし。ゆっくり進んでみましょう」


 しばらく進むと、地面を真横に不自然な赤い線が走っているのが見えた。

 そして、その遠く向こう側に大量の魔物が蠢いていた。

 黒いカーペットが敷かれているように見える。


「レッドラインに大量の魔物。これは噂に聞くモンスターハウスですね」


「ミストラルさん、これがそうなんですか?」


「ええ、不人気ダンジョンでたまにあるそうです。あまりに魔物が退治されていないと、魔物の生息密度が上がって、モンスターハウスが出現することがあると。そして、モンスターハウスが気づかれずに放置されると、ダンジョンから魔物が溢れだすスタンピードが発生します。学者の推測によると、ですが」


 ギルド登録時にもらった冊子にそんなこと書いてあったな。

 見つけたら即ギルドに報告する義務があると。

 ミストラルさんに言われるまで忘れてたよ。



「レッドラインからこちらに魔物はこれませんから今は大丈夫です。ですが、レッドラインは徐々に範囲を広げるそうなので、今のうちに戻りましょう」


 だが、僕は何もせず撤退するつもりはなかった。


「トルテさん、マジカルリングを貸してくれませんか?」


「どうするつもりなの?」


「レッドラインからこちらに魔物は来れないんですよね? だったら、ここから攻撃して数を減らせばいいと思いまして」


「いくらクラウスでもMPがなくなるの」


「僕には【攻撃時MP回復】のスキルがありまして。当たればMPが回復するので多分大丈夫だと思います」


「だとしても、レッドラインが広がってしまえは安全ではありません。私は反対です」


「トルテも怖いの」


「そうですね……。わかりました。引き返しましょう」



 と、引き返そうとしたところ、レッドラインの少し向こうに突然フリーズクロウが10体以上発生し、水魔法のアイスニードルを打ち込んできた。

 魔法はレッドラインを越えてこちらに飛んでくる。


「ミストラルさん、トルテさん、下がってください。……雷よ、我が敵を遮る壁となれ、サンダーウォール!」


 これで少しは時間が稼げる。

 詠唱中にアイスニードルを何発か食らったが、【詠唱時防御】があるし、たいしてダメージはない。

 精神も十分に高いし、魔法攻撃もあまり怖くない。

 フリーズクロウの魔法がサンダーウォールに阻まれている間に次の魔法を唱える。



「……蒼き稲妻よ、嵐となりて我が敵を討て、サンダーストーム!」


 雷の嵐によりフリーズクロウ達を一掃する。

 しかし、さらに後方で発生した魔物も集まってきているので、再びサンダーストームを発動。


「大丈夫ですか?」


 後ろにいる二人に問いかけるが、


「クラウスさん、レッドラインが広がりました!」


 ミストラルさんが慌てた声で叫ぶ。


 一瞬だけ後ろを見ると、僕の前にあったはずのレッドラインがちょうどミストラルさんのいる位置に移っていた。


 前方からは、魔物の大群が少しずつ近付いてきており、足の速いフリーズクロウが群をなしてきていた。


「……雷よ、我が敵を遮る壁となれ、サンダーウォール! ……煌めく稲妻よ、敵を刺し貫け、サンダースピア!」


 防壁を張り直し、遠距離まで3方向に直線攻撃で貫通できるサンダースピアで数を減らしておく。

 ある程度近くに敵が密集したら、サンダーストームで一網打尽だ。

 途中でトルテさんからマジカルリングを借りて、さらに威力を上げておく。



 少しずつ追いついてきた魔物の集団には、フレイムオークやグランドワーム、ゴーストなんかも混じっている。

 全てに同時に対応できる魔法があるわけないので、手持ちの魔法で一番高火力な雷の魔法で迎撃だ。

 ほとんどの魔物は一撃だが、雷に強い地属性の魔物はわずかに生き残っている。

 そこはトルテさんが水魔法でとどめを刺していく。


 一度の攻撃で必ず複数の敵にダメージを与えているので、その分だけMPが回復していく。

 全然MPが減らない。回復分が多すぎて最大MPが200では足りないくらいだ。


 もうこうなるとただの作業。

 敵が減る度にレッドラインも後退していったので、それに合わせて僕も少しずつ前進し、ミストラルさんもたまに光の矢で迎撃している。




◇◇◇




 モンスターハウスの魔物を全滅させてレッドラインが消えた後、残ったのはマジックバッグでも回収しきれない魔石とドロップ品だった。


「うーん、どうしましょう、これ」


「トルテさん、地魔法で地面に穴を開けてください。その中に隠しておきましょう。これだけの数を誰かに持っていかれるのはもったいないです」


 というわけでトルテさんが地魔法により開けた穴に戦利品を次々と放り込んでいった。


 そして、いまマジックバッグに入っている分をギルドの貸倉庫に預けて、また回収に来なければ。

 あ、ついでにギルドにも報告だ。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 定番のモンスターハウス。

 どこかで出したいと思っていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る