第31話 なくなったスカウト
討伐依頼の五日目も無事に終わった。
全て予定通りに討伐を完了したようだ。
が、僕にはどうでもよかった。
ミストラルさんとトルテさんには、できる限り最後までパーティでいると話をした。
エリアさんには…… 何も言えなかった。
助けを求めて情けない姿を見せたくなかった。
今までは簡単に話ができていたのに。
◇◇◇
ヴェインさんに呼ばれるまでは、とにかくダンジョン攻略だ。
死者の祠のボスは、ダストゴースト。
ダストゴーストの周りにはごみのようなものが常に浮いていて、火属性の攻撃をあてると誘爆し、ダストゴーストとその周辺にダメージを与える。
また、瀕死に追い込むと自分に火魔法を打ち込んで自爆する。
この場合、魔石は残るがドロップ品は得られない。
ゴーストなので属性攻撃しなければいけない。
ただし、火属性以外でだ。
念のため、トルテさんにフレイムウォールを展開してもらい火属性の自爆に備える。
そして、自分にはシャインセイバーをかけてメタルブレードに光属性を付与しダストゴーストを一撃で斬り裂く。
ちょっと手順が増えているが、だいたいやってることはいつもと同じだ。
◇◇◇
そうして、30個ほどダストゴーストの魔石を納めたあたりで、ヴェインさんからの呼び出しがあった。
ついにきた。
呼ばれたのは僕一人だ。
ヴェインさんの部屋に入ると、ヴェインさん、サブマス、エリアさんがいる。
この光景ももう見納めなのか。
「クラウス、軍からスカウトが来ている」
「とうとう来たんですね」
「クラウスさん、まだ『永遠の回廊』の踏破は諦めていませんよね?」
「はい、エリアさん。ですが、軍には逆らえませんし、僕の固有スキルも知られてしまっているでしょう。国外にも逃げられないでしょうし、どうにもなりません」
「クラウスの固有スキルについては、ギルドは記録を一切残していない。誓ってだ。この3人の頭の中にしかないぞ。もちろん、誰にも口外していない」
「軍は僕のことを調べていたようですが」
「スカウトにステータスを見られたのだろう? そいつのスキルはな、対象が何か行動を起こしたときに関連するステータスのみを見ることができるというものだ。スキルは見ることができない。魔物が攻撃したらその時にステータスが見れるからなかなか有用ではあるのだがな」
「ギルドは冒険者の意志をできるだけ尊重いたします。ですので、軍の要請をこちらで断ります」
「そんなことをしたらヴェインさんの首がとぶんじゃないですか?」
「俺のことなら気にするな」
「ギルド側にも対抗策が全くないわけではないんです」
「それはいったい……」
「この件は私を信じて任せていただけませんか?」
「……わかりました。エリアさんを信じます。僕は何かできることがありませんか?」
「今までどおりこのまま冒険者として活動していただく事でしょうか」
「それは何もしていないのと変わらないのでは……」
「軍にいたら集団に埋もれて能力を発揮できなくなった、なんてよくあることです。ですから、クラウスさんはそのままでいて、冒険者として成功することだけを考えていて下さい」
「わかりました。どうかよろしくお願いします」
「お任せください」
ヴェインさんやエリアさんに深刻そうな感じはしない。
もしかして、本当に策があるのかもしれない。
今は頼ろう。
上手くいったら、後で何か恩返しすればいい。
◇◇◇
死者の祠に潜り続けて、およそ3週間。
残り70個の魔石を納めきって、ひとまず終わりだ。
その間に宝箱からマジカルリングを手に入れた。
知性が10%上昇するアクセサリーで、トルテさんが付けている。
また、ダストゴーストのレアドロップの灰の指輪も3つ手に入った。
これは闇属性の効果を10%上昇させるアクセサリーで、今の僕たちにはいらないので一つ残して買い取ってもらった。
僕のレベルも若干上がり、いくつかのスキルもレベルが上がった。
LV:53
HP:9142/9142
MP:200/200
腕力:882
体力:881
速さ:780
器用:491
知性:636
精神:619
スキル
【生活魔法】
【中級剣術Ⅳ】【中級盾術Ⅳ】
【中級水魔法Ⅳ】【中級風魔法Ⅳ】
【中級雷魔法Ⅳ】【中級光魔法Ⅳ】
【取得経験値半減】
【ラージⅤ】【腕力上昇Ⅴ】
【体力上昇Ⅳ】【クイックⅠ】
【器用上昇Ⅲ】【知性上昇Ⅳ】
【精神上昇Ⅳ】
【スキル成長速度上昇Ⅰ】
【MP回復力上昇Ⅳ】
【レアドロップ率上昇Ⅱ】
【攻撃時MP回復Ⅲ】
【詠唱短縮Ⅲ】【詠唱時防御】
【探知Ⅲ】【隠蔽Ⅲ】
【トラップシーカーⅢ】
【初級錬金術Ⅳ】
【毒耐性Ⅱ】【沈黙耐性Ⅱ】
【麻痺耐性Ⅲ】
【弱者の意地】
固有スキル
【交換Ⅲ】
それと、いい加減貧弱だった防具も更新しておいた。
ハルモニアの鎧という、軽くて丈夫さが取り柄のB級標準の防具だ。
ちょっとチグハグだった僕の格好もこれで前衛っぽくなった。
◇◇◇
ダンジョン攻略も落ち着いたから今度は何か依頼を受けてみようとギルドのロビーに向かうと、長い行列ができていた。
「あれはなんなんでしょうかね?」
「クラウス、見たことないの? 掲示板を見たらわかるの」
トルテさんが言うので掲示板を見てみると、トーマス商会のC級の護衛依頼が目立つところに貼ってあった。
トーマス商会は、この王国で様々な商品を取り扱う最大の商会だ。
そして、王家御用達でもある。
ウォーレンさんには直接聞いていないが、クレミアン商会の最終目標だと思われる。
「これですか?」
「そうなの。トーマス商会からの依頼は、年に一度か二度くらいしかないの。依頼の形式だけど、就職試験みたいなものなの。クラウスも似たような経験があるの」
ああ、引き抜きか。
というかこの場合は引き抜かれに行くのか。
「C級が対象ですから、青田買いでしょうね。即戦力が必要ならB級以上を指定してくるはずです」
そうなんだ。
まあ、僕には関係ないか。
「依頼の争奪戦が起きないように抽選形式ですので、並べば参加できますよ」
ミストラルさんが冗談めかして言ってくるが、そんなつもりはない。
何となくその行列を眺めていると、エリアさんから声をかけられる。
「クラウスさん、お話がありますので別室にいらして下さい。お二方もご一緒にどうぞ」
◇◇◇
そして、別室にてエリアさんから軍のスカウトがなくなった事を告げられる。
「本当ですか!? ありがとうございます、エリアさん!!」
思わずエリアさんに抱き着いてしまいたくなるが、ここにはトルテさんやミストラスさんもいるので、何とか自分を抑える。
「どういたしまして、クラウスさん。今後軍からお話しが来ることはないと思います。それと、軍以外からでも似たようなお話があれば、私に教えてくださいね」
「ええ、わかりました。エリアさん、恩返しをしたいのですが、僕にできることなら何でもしますから」
「何でもなんて、軽々しく言ってはいけませんよ。ですが、私が困ったときはお願いすることがあるかもしれません」
エリアさんが悪戯っぽく笑って言う。
僕は冗談のつもりではないのだが、とにかくエリアさんのことは何があっても守りたい、と強く思った。
◇◇◇
エリアさんの用件が終わってから、ロビーに戻って3人で軽食を取りながら話をする。
「クラウスさん、軍からのスカウトが取り下げられてよかったですね」
「ええ、ほんとですよ。……どうやって取り下げしてもらったんだろう?」
「クラウスが強すぎて周りがついてこれないからなの」
「そうですね。集団に馴染まない、という判断がされたのかもしれません。強さゆえか、性格的なものかはわかりませんが」
「クラウスは戦い以外では大人しいから性格は大丈夫なの」
「ギルドのとった方法が、純真なクラウスさんには言いづらい方法だったかもしれませんね。エリアさんには聞かないほうがいいと思いますよ」
僕が純真かどうかはさておき、僕の知らないところで僕の性格が調査されていたのだろうか。
そういう固有スキルがないとも言い切れない。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
なぜスカウトがなくなったのかについてはクラウスたちは知ることがありませんが、次話にて別視点から明らかにします。
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