第30話 軍のスカウト
ヴェインさんからの討伐依頼を受けた次の日、死者の祠を10階から開始し最下層までたどり着いた。
15階から出てくるデッドゴブリンメイジが暗闇の状態異常を付与する闇魔法のブラインフラッシュを使ってくる。
【暗闇耐性】を得るのに使えるかと思ったが、僕の物理攻撃命中率が下がると後衛を危険に晒しやすくなるのでそれは諦めた。
それに、広範囲魔法攻撃のシャドウクラスターも使ってくるので見敵必殺だ。
今回、ボスは後回しだ。
2日後の討伐依頼に備えて今日はここまでにして転移陣から帰ることにした。
明日は休息にあてるが、ミストラルさんは教会での奉仕があるそうだ。
大変じゃないんですか、と聞いてみたら、聖メルティア教国や大陸の東にあるカイル帝国も同じように外国人に対して貢献を求めているとのことだ。
特にカイル帝国は、ティンジェル王国と違い奴隷制があるので、貢献が足りない者は問答無用で奴隷にされるそうだ。
王国だと強制出国なのでこちらのほうが緩いように見えるが、入国税に強制出国にかかる費用を織り込んでいるのでカイル帝国よりもお高い税となっている。
出国しても入国税は戻ってこない。
◇◇◇
1日休んで、討伐依頼の日。
今日からラークの森はしばらく立ち入り禁止だ。
集合場所であるラークの森の前に集まると、『酒人公』の姿があった。
「ライネルさん、お久しぶりです」
「よう、クラウスか。お前さんも呼ばれたのか。ってことはパーティに誰かB級がいるのか?」
「いえ、C級に上がったばかりです。ライネルさんたちはB級なんですか?」
「そうよ、ついこの間B級に昇格したのよ。6年間長かったわ……」
エリーゼさんが遠い目をしている。
「お前たちも災難だったな。こんな安い仕事に付き合わされて。この程度優秀な騎士さん達で十分だろうに」
「ちょっとライネル! ここでそんなこと言わないの!」
ライネルさんは不満なようだ。
B級の収入に比べれば無償奉仕させられているに近いもんな。
ただ、こういったことは年に一回、二回あるかないからしいので、ちょっとした愚痴をこぼしたかっただけみたいだ。
◇◇◇
「冒険者ども、こっちに集まれ!」
メイベル部隊の人から声がかかる。
今回の雇い主とでもいうべき人たちだ。
僕たちは、西側の掃討を担当する分隊の後ろにつくよう指示された。
そして荷物運びを命じられる。
隊員は比較的若い兵士が多いようだ。
ベテランっぽい人が2人いて、アレコレ指示をしている。
準備が終わり、隊が出発するので着いていくが、敵が出ないので暇だ。
僕は、【探知】【隠蔽】【トラップシーカー】をMPが半分を切らない程度に発動している。
トルテさんは修得したばかりの中級火魔法『パワーアップ』を自分に発動している。
これは、対象の腕力を一時的に20%程度上昇させる魔法だ。
ミストラルさんは中級光魔法のオーディナリーをたまに空撃ちしている。
初日は十体ほどのブラッドグリズリーに遭遇したが、僕たちの出る幕はなかった。
二日目も何体か遭遇したようだが、こちらに出番が回ってくることがないので数えていなかった。
【探知Ⅱ】がレベルアップして【探知Ⅲ】になってた。
三日目も僕たちの出番はない。
【隠蔽】のレベルを上げたいので【隠蔽】に絞って早くスキルレベルが上がらないか試していた。
割り振られた野営の見張りも終わったので、さあ寝ようか、というところで僕にお呼び出しがかかった。
見た目30歳くらいの兵士に連れられるまま入ったテントに入っていく。
「お前、全然腕を見せるところがなくて退屈だろう? 明日はブラッドグリズリーを倒すところを見せろ」
「はい、わかりました」
「以上だ、持ち場に戻れ」
僕は割り当てられたテントに戻ってきて、先の短いやり取りを2人に伝える。
「クラウスさん、目をつけられていますね」
「報酬分くらい働け、っていう意味かと思いましたが」
「それならばパーティ全員を呼ぶか、パーティ全員で戦え、と指示するはずです」
「クラウスが軍に引き抜かれるかもなの」
「そうですね。軍は冒険者でいうB級の人間の層が厚いですから、C級の私たちは本来この場にいなくてもいいはずです。おそらく、引き抜きに値するかどうか見るから力を見せろ、ということなのではないでしょうか」
「断れない……ですよね」
「もちろんです。本来は喜ぶべきことなんですよ。兵士に採用されれば生活は安泰ですからね。安定した給料、退役後の就職など、冒険者にはない安定がありますから」
「けどそれだと『永遠の回廊』に挑戦できないです」
「断るのも実力を隠すのも無理でしょう。ギルドにあるあなたの資料は全て見られていると考えるべきです」
まさか【交換】スキルのことも……?
エリアさんも軍には隠せなかったか。
「どうすれば……」
「なるようにしかならないと思います。普段通りに行動するしかないでしょう。軍がやっぱりいらない、と思ってくれるのを祈るしかありません。いっそ、聖メルティア教国へ逃げてみますか?」
「ミストラルさん、無理ってわかってて言ってますよね」
「ええ、申し訳ありません」
◇◇◇
四日目、特に何も思い浮かばず、わざと1体残されたブラッドグリズリーと対峙させられる。
テントの時の兵士が鋭い目で僕をみている。
「まずは魔法を使え」
「……水冷の力よ、我とともに在らん、アクアセイバー」
アクアセイバーを発動し、メタルブレードが薄く青いオーラで包まれる。
「そのまま攻撃しろ」
言われるままブラッドグリズリーを両断する。
「…………‼ もういいぞ、下がれ」
「はい」
その夜一番大きなテントに呼ばれる。
分隊長と僕を審査していた兵士がいた。
分隊長が僕に話しかけてくる。
「クラウスくん、だったかね。ここに呼ばれた理由はわかるかな?」
「……ええ。僕のうぬぼれでなければ、軍へのお誘いかと」
「その通りだ。ギルドの資料によると、わずか5か月でC級に昇格。なかなかの天才っぷりじゃないか。E級のときにB級ボスを2体、D級なのにグレートグリズリーを討伐。半信半疑だったが、今日の戦いで納得だよ」
続けて兵士が喋る。
「私は、相手のステータスを見ることができる。お前の戦いの際に見させてもらった。腕力が800超え、知性はほぼ600。ブラッドグリズリーだってアクアセイバーなど要らなかっただろう。軍に来なさい。出世は間違いないぞ」
「……僕は、『永遠の回廊』を目指しています」
「知っているさ。だが、君は若すぎるから視野が狭いのだ。懇意にしている女性はいるか?」
「いません」
「家族を持てばわかる。いつ死ぬかしれない冒険者稼業では、いずれ家族が悲しむぞ。私はこのスキルにより軍に採用され、今では結婚もしている。子供は可愛いぞ。仮に私が任務中に死んでも、軍が家族の面倒を見てくれる」
「…………」
「お前も冒険者ならわかるだろうが、軍の命令には逆らえないぞ。そのうち、ギルドマスターから話が来るだろう。その次は軍でさらに詳しく検査を行う。それまで束の間の夢を見ておくといい。こちら側も悪くないぞ。では、戻ってよい」
ほとんど一方的に話をされ、僕は帰された。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
この世界では、ギルドは軍の下部組織扱いでかつギルマスは軍人扱いです。
一般的にも冒険者はちょっと社会的地位が低い感じです。
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