四 墓地に立つ記念碑

 墓地や元々墓地だったところに生きている人の名を記した墓石を立てるのは、とても良くないことだと言われている。オカルト的な話だとよく言われるが、死者の名前に並んで生きている自分の名前が書かれるというのは、お世辞にもあまり嬉しいことではないだろう。今回の話は、前の話の■■研究所であった、そういう話である。

 父の話より引用する。

「雨の中での電波伝播を研究していた第三班が、あるとき大きな成果を上げた。成果の内容は言えないが、とにかく素晴らしい成果だった。たちまち研究所の幹部たちが記念碑の相談を始めたんだけどね……」

「何かあったの?」

「取り寄せられた石材が、墓石そっくりだったんだよ。その石に直接銘を彫り込むことになっていたんだけど、所長が慌ててねぇ」

「なんで?」

「その■■研究所についてもう一度説明するぞ。そこは戦前までは墓地で、その後に政府機関が土地を買い取って庁舎を建てた。そして、その建物を電電公社が研究所として使っていたんだ。もうわかるね?」

「墓地に墓石……研究チームは生きてるんだよね?」

「ああ。もちろんだ」

「ならヤバいんじゃないの?」

「そういうことだ。とても縁起がいいとは言えたもんじゃない、というか非常に縁起が悪い。縁起が悪すぎる。だから所長は慌てたんだ」

「墓石そっくりなことは事前にはわからなかったの?」

「ああ、業者に任せたらしいからな。それで話をもとに戻すと、その墓石そっくりの石材に名前などを彫るのはヤバいということになった。だから、所長は自分の金で新しく金属板を買い、業績と電電公社の正式名称を記させた。怖いからという理由で名前は彫らなかったけどな。でも、それで縁起が悪くなくなったとは言えないから三班の連中は半年くらいビクビクしてたよ」

「ところでオチはないの?」

「まあ電電公社は民営化で消えたし、研究チームの業績もよりよい方法がすぐに見つかったことで活用されることはなかった。つまり、そういうことだ」

 私はこの話を聞いたとき、身震いした。記念碑に彫られたものは、皆死んでいるのだ。

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日本電信電話公社怪奇事件簿 古井論理 @Robot10ShoHei

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