三 鏡の目隠し
父が配属された■■(特定不可避なので伏せる)にある(今はもうない)研究所の階段には、鏡が置かれていた。その建物が研究所になる前からあった、いわく付きの鏡である。さらにその鏡については、建物が建つ前の敷地が空襲で破壊された墓地であったことから奇怪な噂が蔓延っていて、特に一階の鏡には、布で目隠しがされていた。
「○○君(父の名前)」
「なんでしょう」
主任に声をかけられた父は、階段の方に向かった。主任は階段を降りながら、父に研究の進捗を尋ねたという。
「順調ですよ」
「そうかそうか」
「ところで……一階の鏡の話なんですがね」
「一階の……鏡?」
「はい。布がかぶせてあるのってあそこだけですよね」
「ああ」
「どうしてなんですか?」
「それを言う前に、一つ聞いておきたいことがある」
「何でしょうか」
「君は、幽霊というものを信じるかね」
「いいえ」
「では、なぜ目隠しがされていて、この建物で不思議な出来事が噂になると思う」
「人の恐怖心からではないでしょうか」
「そうか。では、あの鏡についてはそこまでだ。人の恐怖心をあおる「何か」があるといえば、わかるな」
「もしや……」
「そう、そのもしやだ。あの鏡には、夜になると映ってはいけないものが映る。だから、ああして目隠しがしてある」
「ええ……ここは天下の電電公社、科学技術と合理の結晶ではないのですか」
「それはそうだ。だが、あの鏡の裏にはお札が貼ってあるんだ。科学技術と合理を重視する電電公社が支社レベルとはいえこんな非科学的な対策を取るのは、ひとえに科学が万能でないからだ。科学が立証しないものだって、厳然と存在しうる。よく覚えておきたまえ」
「……はい」
この話は、私が子供の頃に父から聞いた話である。もちろんこれまでの話同様、ただの得体の知れない体験談だ。だが、電電公社がこのような処置を実際にとっていたとすれば、それは科学が万能でない裏付けとなるだろう。
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