二 墓地のタイピスト

 ある日、父は遅くまでオフィスに残って仕事をしていた。そのオフィスはかつて墓地だった土地にあったため、皆は一様に帰りたがった。父はそんなことをあまり気にしなかったため、日付が変わってもオフィスにいたそうだ。

 そろそろ帰ろうとして父が鍵を閉めると、オフィスの中からまだパソコンの打鍵音がした。

「まだいたのか……」

 そう思った父がドアを開け、電気をつけたが、しかしそこには誰もいない。

「隣のブロックか……?」

 父はそう思い、タイムカードを見て戦慄した。

「全員分ある……」

 そのことに気づいた父は、逃げるようにオフィスを去った。翌朝行ってみても、誰かが残っていたという話は聞かない。気の所為だったと考えていたらしい。或いは産業スパイだった可能性も考え、上司に報告した。しかし他の社員に聞くと、彼らも同じことを経験しているという。

 深夜の打鍵音は産業スパイの手によるものだったのか、或いは……?そんなことは、遠い昔にわからなくなっているに相違ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る