日本電信電話公社怪奇事件簿

古井論理

一 田舎の電波塔

 父がこんなことを言っていた。

「もう時効だと思うから話すが、電波塔ができた田舎で、ある一人の男が電電公社にクレームを入れてきたんだ。彼の主張はこうだった。

「電波塔ができてからというもの、鬱陶しい光が見える」

 当時は電磁波汚染などという本が流行っていて、ありふれた内容だったので技術チームは無視した。

 しかしだ、あまりにもうるさいので根負けした技術チームは、一度だけ電波を止めてみた。するとその日のうちに「ありがとう」と電話が来たのだ。技術チームは不思議に思い、もう一度電波を流してみた。するとまたその日のうちにクレームがついた。他のクレーマーに同じことをしても何の音沙汰もなかったが、彼だけはなんと電波が止まったことに気づいたのだ。携帯電話を持っていて、それで察知しているのではないかとも疑った。そこで彼の名で借りられている携帯電話回線を探したが、そんなものはなかった。

 ここで電電公社の技術チームは、このことを知るものに箝口かんこう令を敷いた。僕もこのクレーム対応に関わっていたけど、このことは極秘であると言われたよ。

箝口令を敷くということはつまり、陰謀論者にとれば有利ともとれる特例中の特例を外に出したくなかったから……とも推察できるが、真実は電電公社も知らないだろう。すべてを知るのは、あのクレームを入れた男だけだと思う」

 すべてそのクレーマーの嘘だったのか、或いは……?そんな思考が浮かんだが、私は考えるのをやめた。誰にもわかるはずのないことなのだから。

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