エピローグ
隣を見ればそこにいる。ただそれだけでこんなに満たされることだとは。喧嘩中の数日間を経験しなければ分からなかったことだった。
なんて隣を歩く夏海を眺めながら考えていた。
「そういえばさ、夏海」
「なに?」
「あの、文化祭の日一緒にいた男はどうなったの?」
「あぁ、実はあの後告白されたりしたんだよね」
「なにっ!けしからんな」
「まぁまぁ、勿論振りましたけど。彼氏がいることとそれが圭吾だってことを話したら納得してくれたよ。『夏海ちゃんが幸せなら俺も幸せだ』ってさ」
「ふーん。なんかいけすかない野郎だったけどな。喧嘩売ってきたし」
「いやいや、あん時圭吾完全に不審者だったから」
「えー!?そんな変だった?」
「変だったよ!雨の中傘もささずに凄んだ顔で『加瀬夏海に話がある』とか言うんだから」
「そうだったか。あん時はいっぱいいっぱいで」
「まぁなよなよされるよりはよかったけどね」
「そっか。じゃあ良かった」
俺たちの新しい日課。毎日駅まで手を繋いで歩く。
「ん…あれは」
蟻が列をなしている。
「俺さ、蟻嫌いだったんだ」
「なんで?」
蟻はとても頼りなさげな6本の脚で背中に食料を背負い、着実に進んでいる。
「ほら、蟻って働きアリとかのイメージが強くて社畜って印象じゃん、それで親父と重ねてたんだ。お前はなんのために働いてるんだ!ってムカついてた」
けど今ならわかる。蟻はその小さな身体で、仲間たちに、家族に、確実に幸せを運んでいる。
「さぁて、俺も新しい就職先探すかな!」
涼雨 藤田 @Nexas-teru
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