ある薬
ふさふさしっぽ
ある薬
「ね、知ってる?」
大学の友達が、けだるげに言った。
「なんか、ちょっと聞いた話でさ、嘘かも知んないけど」
「嘘なの?」
「いや、多分ほんとっぽい。聞いた話だから」
どっちだよ。
「で? 何の話」
「聞きたい?」
「……」
私に聞かせたくてしょうがないくせに、もったいぶってないで早く話せ。
「昨日、映画の帰りに聞いた話なんだけど」
私が黙ったら勝手に話し出したよ!
「あ、映画って、二人で行ったんだけど」
はいはい。彼氏と行ったわけね。二人とかぼかさないで、彼氏って言えばいいのに。
「二人って、彼氏? いいナー」
仕方ないから話に乗ってやった。疲れる。
「そうなの、彼氏。言わせないでよ」
「……」
「で、その彼氏から聞いた話なんだけど、最近、自分の好きな夢を見られる薬って、流行ってるでしょ」
「それなら、私も使ったことあるよ」
数年前、人が眠っている間に見る「夢」のメカニズムがついに解明された。そして去年「夢の内容を選べる薬」が販売され、大人気となった。
コンビニでも売られ、誰でも手軽に買えるのが魅力だ。
「ヤバい夢を見る薬ってのがあるんだって。個人がネットで販売してて、ほんと、ヤバいらしい」
友達はセミロングの髪をぱさっと払った。
何その気取った仕草。本題はやく。
「違法のエロい夢を見られる薬?」
「それより全然ヤバい」
「どんな」
たっぶり間を置いて、友達は言った。
「その夢を見ると、起きたあと自殺しちゃうんだってさ」
私の反応が気になるくせに、あくまで気だるげな口調。ってか、その話してる途中口をすぼめる仕草何? 癖なの? ひょっとこみたいなんだけど。髪型も似合ってないし、どう見ても平均以下のその顔で、いい女ぶってる感じが痛々しい。いるよね、こういう自分を分かってない、哀れな人。
目が覚めた。
私はすべてを思い出した。
ネットで買った「自分を完全に客観的に見ることができる薬」
人は、いくら自分自身を客観的に見ようとしても完全には無理である。自分の行動を振り返ったり、自分自身を撮影して見返したりしても、それが「自分」であることを自分が認識している限り、自分に甘い点をつける。そういう触れこみだった。
私はこの世に生まれた自分とは何かを知って、もっと自分自身を成長させたかったので、昨日、この薬を飲んで寝たのだけれど。
私は無意識に口をすぼめていることに気がつく。
ひょっとこ……。
私、ヤバい。
もう、恥ずかしくて、生きていけない。
ある薬 ふさふさしっぽ @69903
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