第5話インターミッション ベイダーの陰謀
「ええい、我ら帝国の醜態をさらすとは! 人間側の士気は先の戦いで大きく上がり、本戦でも勝つつもりでいるぞ!」
「恐るべきはチームガイア……。たかが地球の小学生と侮っていたが、実にすさまじい異能の持ち主だ。至急対策を立てねばなるまい」
喧騒に満ちるのはベイダー帝国評議会。
これまで幾多の知的生命体を屈服させてきた常勝の帝国ベイダーにあって、統治を司る政務の舞台。ベイダーの生命維持管理はAIファーザーが行うが、表向きに謀略を行う機関はこの評議会である。
「ベイダー科学技術局とも交渉した結果、ドッジボール専用ロボット軍団はすでに本戦に対する備えを取り付けました。終末兵器アストロンの参戦も辞さぬ、と」
ベイダー最高の知恵者として知られる評議員、マステマの言に対して評議会から一斉に拍手が起きる。
「我らベイダーのロボ軍団が加わるとなれば以後は問題あるまい……」
「お待ちあれ!」
評議会中に轟く声。
評議員たちが一斉に目を向けると、緑色の肌ながら、剽悍そうで鍛えられた人間型の体の持ち主が立っている。
「なぜ評議会は我ら帝国創世騎士団十二騎士長を地球人類と戦わせようとせず、機械になど頼ろうとするのか!」
「ひっ、創世騎士団筆頭騎士長アズマ……! なぜ評議会の場にいる! お前たちはケプラー星系防衛の任を命じられていたはず!」
怯えた様子のマステマ。彼だけではない。評議会の議員たちはみな恐れの色をなして押し黙る。
「あ、アズマよ……。お前たちは強すぎるのだ。お前たちが本気を出したら地球が崩壊してしまう。我らの目的はあくまで侵略であり闘争ではないのだ! 今回は、今回だけは我慢してくれ!」
「評議会の総意とあらば我らも従いましょう。ただし、従うのは一度のみ。努々忘れることなく」
言い残してアズマが姿を消すと、評議員たち一斉に大きく息を吐いた。
高い技術力を持ち高度に発展した文明を持つベイダーだが、本来は強大な力で周辺惑星を侵略した戦闘民族。わけてその血を強く引き、時に暴走する帝国創世騎士団十二騎士長はあまりにも強大で、むしろ疎まれている。
「なんとしても本戦に奴らを介入させてはならぬ……」
マステマの呟きは評議会の、いやベイダー全国民の総意ですらあった。
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「乾杯!」
初戦の勝利に対して行われた祝杯、いや、弾次が下戸な上に転生者は全員が小学生ということになっているので、酒ではなく焼肉とジュースで盛り上がる一座。
「まあ完全勝利といっても俺と夕雲だけで勝利したようなものだけどな。悔しいか、ホームズ?」
得意げなルパンの様子に対して、淡々と塩ホルモンを焼きながら口に運ぶホームズ。
ふと疑問に思って弾次がホームズに尋ねる。
「そういえばホームズとルパンはライバル関係だったか」
ホームズは興味なさそうに答える。
「いや、私はルパンなど知りませんよ。向うが勝手に私を知っていて、なにやらマウントを取るのです。察するにルパンという人物はこの時代の言葉で表現すると、私のストーカーのようなものでしょう」
ルパンシリーズの作者モーリス・ルブランは当初、自作にホームズをそのままの名前で登場させた。訴訟沙汰にはなっていないが、ホームズの作者ドイルはルブランにホームズの名前の使用を許可せず、結果エルロック・ショメルというシャーロック・ホームズのアナグラに差し替えたという経緯がある。
「ふむ……ストーカー、我が父上」
ドラキュラ伯爵が不意に赤い目を光らせる。
「伯爵の旦那の生みの親はブラム・ストーカー、多分ストーカー違いですぜ」
「お前はお前で私に妙に懐いているようだがなぜだ? 」
「伯爵を見ていると、義理の父親のような存在を思い出すんですよ。あっしは多分いい人生を生きてこなかったけど、最良の日々はその人とあった的な……」
伯爵にオレンジジュースを手渡す少年エド・ウッド。
生前不遇の映画監督であった彼の数少ない理解者は、ドラキュラ伯爵を演じて名声を博したペラ・ルゴシ。その因縁が彼に郷愁を感じさせるのか。ちなみにエドは女装が趣味でピンクゴスロリに身を包んでいるので、弾次は最初、彼が女の子だと思い込んでいた。
LGBTが大きく取り上げられる昨今、人には人の事情があるのだろうと、弾次は敢えて言及しないが。
ノイマンは空気を読まずずっとスマホに夢中。
正直なところ、弾次は彼がスマホをしているところしか見ていないので、ドッジ戦士としてどこが優れているのかを理解していない。だが、ガイアの意思が選んだからには彼なりの必要性があるのだろうと、許容している。
そもそもノイマンのドッジ戦士としての適性を疑うのなら、映画監督だというエドや錬金術師であるメルクリウスの力も未知数なのだ。
突出して戦闘に向いている夕雲や丹波は選手として用いやすいが、各人の能力を深く確かめて戦略を作る必要があるな、と弾次は考える。
「弾次さん、次は何を焼きましょうか? 」
甲斐甲斐しい台与の世話焼きぶりに心打たれる弾次だが、相手は小学生巫女。
エロ漫画を読み過ぎて正直ロリもいける口の弾次。酒が飲めない性分で本当に良かったと思いなおす。何かあったら対ベイダー以前にポリス沙汰である。
「でも……弾次さんってニートという収入のないご職業なんですよね? いいのですか、このような宴を開いていただいて」
「女の子から面と向かってニートと呼ばれると辛いが、本試合までは国の手当てがあるから、俺たちの衣食住は保証されている。だから今は勝利を乾杯しよう」
「地球に乾杯、ですね」
台与は心底嬉しそうに微笑むと、弾次の持つグラスに自身のウーロン茶のグラスをカン、と当てた。
一週間後、チームガイアとベイダーチームのエクストリームドッジボールによる試合本戦直前。
「ベイダーチームの控え選手の上限が千人!?」
思わず大声を上げる弾次に、ベイダー側の監督・マステマはまったく誠意の感じられない謝罪を行う。
「すまんな。実は人類のドッジボールのルールと、我々ベイダーのドッジボールのルールがまったく異なるものだという古代の文献が発見されてな。この試合はお互いの文化を尊重した上で行う紳士的スポーツなのだから、お前たちが十二人、こちらが千人でも何ら問題ないはずだろう?」
「十二対千とか正気で言っているのかあんた! 問題大有りだ、抗議する! 」
「抗議するなら我々はいっそ戦争をしても構わんのだよ。いっそ今すぐフォトンガンシップ級五十隻並べて地球を火の海にしてやろうか? 悲しいかな、お前のせいで街が燃えちゃうんだよ。我々はスポーツマンシップを最大限に発揮したのに、お前たちが望んだ戦争が起きるわけだ」
矢継ぎ早のマステマの脅しに、くっ、と弾次は唇を噛んだ。
交渉の余地はない。
戦いはすでに始まっている。圧倒的軍事力を持つベイダーに狙われた段階で地球側は半ば詰んでいるのだ。
ならば一筋の光明である、エクストリームドッジボールの試合での完全勝利に賭けるしか道は残されていない。
「ベイダー側に千人の控え選手を置くという条件を飲みます。ただし、こちらからの提案を二つ飲んでください」
「善処しよう、言ってみたまえ」
「一つは頭部への故意の攻撃を禁止する『ヘッドアタック』のルールを適用し、いかなる理由、いかなる相手が対象であろうと頭への攻撃を行った選手を即時失格退場にさせること。もう一つは、試合の日時と場所を俺が決めるという物です」
弾次がメモに箇条書きした内容を見て、マステマは少し考えた後、回答した。
「ふむ……それだけならば良しとしよう。ところで、どうせ頭意外に攻撃が当たっても死ぬのに、わざわざヘッドアタックだけを禁止する理湯があるのかな? 」
「笑われるかもしれませんが、俺は可能な限り『普通』のドッジボールをしたいんです。ヘッドアタックは明確な暴力。容認したらドッジボールはスポーツではなく単なる暴力になってしまうから」
「くだらん。ドッジボールは元々暴力だ。お前たち人類だってドッジボールで子供の人口を減らそうとしていたんだろう? 実にくだらん感傷だ」
なおも念を押す弾次に、マステマは違反した際には制裁を受ける、とAIファーザーに対して宣誓し、両者は一度別れを告げた。
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