第4話 因果応報!宇宙人虐殺ショー!

 自殺志願者……もとい有志チームが名乗り出た以上、親善試合を引き延ばすわけにもいかず、人類VSベイダーの2試合目、開始である。


 再び会場として選ばれた東京大ドームの観客は、前回の半数もいない。

 好んで負け戦を見物するなど、よほどの暇人であろう。前回の試合が相当にグロい展開になったので、猟奇趣味の持ち主などが観戦に集まっている可能性まである。


 照明に照らされた夜19時のドーム内。

 弾次は円陣を描く選手たちを激励する。


「今ドームに集まっている観客は悲劇を見るために集まっている。だけど実際に彼らが目にするのは奇跡のショータイムだ。台与、神託オラクル は降りているか? 」


 弾次に問われたのは、いつか彼を説得した美少女・台与。彼女は目をつむり、祈りながら体を揺らす。

やがて彼女は瞳を輝かせながら語る。


銀級神託 オラクルシルバー、出ました。『完全勝利』です!」


かつて邪馬台国を治めたシャーマンの女王・卑弥呼の娘である台与は神託を告げる力を持つ。

 

神託の内容は銀級神託・金級神託 オラクルゴールド特級神託 オラクルプラチナの三段階と、内容の詳細さや予知する未来の正確さによって分かれており、銀級神託で分かる範囲はアバウト。

だが、チームガイアの士気を高めるには十分だった。


「邪馬台国の巫女姫が予知したのなら、完全勝利は間違いない。実は俺も勝利を確信している。チームガイアは無敵だ! 行けっ、人間とドッジボールの恐ろしさをベイダーどもに叩きこんでやれ!」


 弾次の号令一下、チームガイア一同は外野のルパンを除いて全員コート内に入っていく。


 試合開始と同時にジャンプでボールを取り合うジャンパー役の三太夫を前に、同じくジャンパーのベイダー選手、アルファが笑う。


「へへっ、地球人ってのは何も学習しない生き物なんだな。それとも自殺志願者の集団なのかぁ?」

「ふっ……雑魚はよく喋る。伊賀の忍びなら背後から無言で殺す」

「なんだとてめぇ、まずはお前からぶっ殺してやる!」


 試合開始のホイッスルがなり、ボールが中空へと上がる。ジャンプでボールを取り合うのは勝負を占なう重要な起点だが、アルファは跳ねなかった。


「ボール吸引マシン発動! ジャンプの必要すらねぇ!」


 吸引マシンがガガガと音を立てると空に上がったボールはベイダーのコート側へと吸い込まれ……ない。


「ルパン、拙者にパスを渡すでござるよ!」


 夕雲が外野に向かって叫ぶ。

 なぜ外野?

 そう、外野では今ルパンがボールを持ち、手元でポンポンと遊ばせている。


 盗むことに特化した怪盗ルパンの力・『ディメンジョンピックポケット』を使えば、あらゆる状況下でもボールを『盗む』ことが可能。ルパンがその気になれば永久にチームガイアの攻撃ターン。


「キープ・フォー・ファイブだルパン! 五秒以内に誰かにパスしろ!」


 弾次の指示にルパンがボールのパス準備に入る。


「了解、受け取れ夕雲!」

「かたじけない!」


 ボールを受け取った夕雲。投打を行う彼の姿勢を見てアルファが叫ぶ。


「俺たちのドッジプロテクトスーツを貫けるもんかぁ! 」


 それがアルファの最期の言葉だった。

 次の瞬間、アルファの体は唐竹割に両断され、緑色の液体を噴出しながらどう、と倒れる。


 先制殺はチームガイア、スコア一獲得だ。


「な、なにが起こった?」

「見えねぇ、なにが起こったか見えなかった。と、とにかくボールを拾え!」


だがボールはすでにルパンの手の中にある。


「二人目殺るぞ、夕雲!」

「承った!」


 夕雲がボールを受け取ると、またもベイダー側の選手ベータが叩き斬られて命を落とす。


「反則! 反則!」


 ベイダー側の監督が猛抗議するが、弾次は相手にしない。


「夕雲が使っているのはドッジ無住心剣 むじゅうしんけん。ドッジボールのコートを使用しているからルールの範囲内ですよ」


 ドッジ無住心剣。


 無住心剣という、構えや技を持たない流派を生み出した針ヶ谷夕雲は、ただ心の在り方だけで相手を倒す剣客として生涯無敗を貫いた。

 夕雲と対峙したものは、心だけで勝負をつける心剣空間に強制的に拉致され、心の強さを比べる一騎打ちをすることになる。

 夕雲に心で負けた者は現実世界でも斬られ、死ぬ。

 

 ガイアの使命を帯び現代に転生した剣客小学生・夕雲に対し、しょせん舐めてかかっているベイダーなどが太刀打ちできるわけがない。

 心の剣による斬殺は続く。


 ルパンと夕雲のコンビにより殺戮はルーティン化し、スコアはすでにチームガイアが十。

 ベイダー側の内野コートに残る選手の数はたった二名。その二人も怯えた様子で士気は低い。


 勝負は台与の宣託通り完全勝利で終わると思われた、が。

 パンっという大きな響きと共に、中央に陣取っていた丹波の頭が弾け飛ぶ。


 観客席にいる何者か……いや、ベイダーの刺客による狙撃。


「ついに卑劣な本性をむき出したなベイダー。紳士的宇宙人が聞いて呆れる。審判、反則行為だ!」


 弾次が抗議するが、審判は反則を認めない。


「先ほどの攻撃は ドッジライフルを用いた狙撃。コート内に対するドッジ兵器の使用は反則に当たらない」


 謎理論だがとにかく反則ではない。

 審判がそうジャッジした以上、ゴネても始まらないと弾次は引き下がる。もちろん諦めたわけではない。


「ホームズ、狙撃犯の位置を『推理』してくれ! 」

「狙撃犯の位置はドーム内Cの二十五列三番。射撃の角度を考えると実に初歩的な推理だよ、弾次監督」


 ホームズの推理は冴え渡り、素早い回答。


「場所はわかった、なら丹波!」


 弾次が指示するが、百地丹波は先ほど死んだのではないか? いや、三太夫は普通にコート内に立っている。


 ぎゃああっという叫びが観客席から起きる。

 衆人が目を向けるとそこでは、ベイダーの刺客が丹波に首を斬られて絶命していた。


「コートから出るのは反則! 反則!」

「審判よ、吾輩はコート内にいるぞ」


 審判が声の方を見るとコート内にたしかに丹波の姿。彼は呵々と笑う。


「狙撃犯を斬ったのは吾輩の分身。狙撃されたのも吾輩の分身。分身ならば問題ないであろう? 試合続行というわけだ! 」


 再び開始される殺戮。


「夕雲!  今何人殺ったぁ?」

「ちょうど十二名、でござるよ!」


 ルパンの問いに、ベイダー最後の選手を斬り殺して微笑む夕雲。

 

 試合時間計二分弱。スコア十二対0。

 人類とベイダーの二度目の親善試合は人類側の、チームガイアの圧倒的勝利で終わった。

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