Unfamiliar room
ボラギノール上人
第1話
目が覚めると見慣れない部屋にいた。
どこなんだ、ここは。
周囲を見渡すと、一見ただの何の変哲もない部屋で棚に本棚、テーブルやソファ、天井からブラ下がった植木鉢に良く分からない置物なんかが置いてあって一つだけドアがあった。
そして、唯一目を引くのは壁にかけられた大きいモニターだった。
俺は、何でこんなところにいるんだろうと思い返してみても飲酒をして初対面の女の子の家に泊まったなんてことも無くて、仕事をして夕飯の買い物をして帰ろうとしていたはずで、何も思い当たるような事は無かった。
これってひょっとして誘拐なのかとまず考えてしまうが、それにしてもここは普通の部屋だし、非現実的でそこまで深くも思えずただぼんやりとしていて、そうだ連絡と取らなきゃとスマホを見てみると、圏外だった。
どうせ開いてないだろうと思いながらドアを開けようとしても、当然カギがかかっているし数字を打ち込む画面が取り付けてある。この部屋に番号が書かれた紙があるかもしれないなと部屋中を探そうとしていると、突然モニターに変なマスクをした男が映った。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!~~~~~~~~、~~~~~~~~~。」
マスク男は何語か分からない言葉で何かを話している。その男の後ろには何十人もの人たちが目隠しをして、後ろ手に縛られたような状態で座っていた。
「あの、すいませーん!!ここどこなんですかねー!!俺はなんでここにいるんですかー!!」
大声で尋ねてみたものの、マスク男からの応答はない。こちらの声は聞こえていないようだ。
「~~~~~~~~~。~~~~~~~~~。~~~~~~~~?~~~~~~~~……。フ…フフフ…ハーッハッハッハッハ!!」
「いや、すいませーん!!なんかキマった感だして喋ってるけど何言ってるか分かんないんですよ!!日本語で喋ってくれないですかねえ!!ねえって!!」
「~~~~~~~~……。~~~~~~、~~~~~~~。」
マスク男が立ち上がり、後ろに座ってる人たちの周りをゆっくりと歩いて、時折手にもっている銃で頬を撫でている。
「完全にやべえやつじゃねえかよ!!!何言ってるかマジで分からんけどお前がめちゃくちゃ悪くてやべえやつって事は分かったわ!!!あと笑い方が悪者っぽいわ!!!」
「~~~~~~~~~~~~…。~~~~~~~~~~!」
パチンとマスク男が指を鳴らすと、スクリーンの画面が変わり60分のカウントダウンが表示された。
「あ!おいちょっと待て!おいって!…あいつなんなんだよマジで…そんで何語なんだよアレ…全く言ってる事が分からねえ…。」
全く状況が掴めていないが、ちょっと考えてみる。
怪しいマスクの男、その後ろにいる人質の様な人たち、カウントダウンが始まっていて、部屋に閉じ込められている、そして一つだけあるドア…。
なるほど、これはアレだな。一時間以内にこの部屋を脱出すれば人質は解放するみたいな、そういうやつだ。イカレた奴が仕組んだイカレ脱出ゲームだ。多分!何言ってるか全く分からねえけどきっとそういうことだ!
そうと決まれば、試しに棚の引き出しを開けてみるとプラスドライバーが一本入っていた。
「おお…マジで脱出ゲームっぽい…。」
他の引き出しを開けると、何かのくぼみがある箱、ハサミが出てきた。
「なんか…かなりヤバい状況なんだけどちょっとワクワクしてくるな…。脱出ゲーム結構やってたしいけるかもしれねえ…。」
部屋の中を調べ尽くしてネジ止めされたプレートをドライバーを開けて、中から出てきたレバーを引いたら天井からブラ下がっていた植木鉢が降りてきてその中には、何に使うか分からない透明の玉が入っていた。
そんな事を繰り返して、少しずつ謎を解きふとモニターを見ると残り40分になるところで、もう20分も経ったのかと驚いていると画面が変わってマスク男が写った。
「頼む…分かる言葉で話してくれ!お願いだから!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…。」
「やっぱ分かんねえよ!!そら急に分かるわけないわな!マジで何語なんだよこれ!モギラ語か!モギラ語だろこれは!俺に分かると思うなよモギラ語が!」
モニターを指刺しながら、適当に今作った言語を叫ぶ。
「ハハハハハハハハ!!〜、〜〜…。ハーッハッハッハ!!!」
マスク男もこちらを指差して笑ってるように見えた。
「え、何これ伝わってるの?ねえ!伝わってるんですかー!?すいませーん!これは一体何なんですかー!?あと、何でウケたんですかー!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
ブツっとマスク男の顔が消えて残り37分のタイマーがまた映った。
「あ、おい!こら!また消えたわ…あいつ日本語分かるのか…?何なんだおい…。」
脱出ゲームをやらされている事は間違いないが、目的が全然分からない。
俺が時間内にクリア出来なかった場合、人質はそして俺がどうなるのだろうか。
あのマスク男は、銃を持っていたことからきっと殺されてしまうのかもしれない。そう考えると腹が立ってきて、絶対にクリアしてやると決意した。
あれから、ハサミで紐を切ってライターでアルコールランプに火を付けて紙に変なマークを炙り出して、棚をどかした所の壁にあったパネルにそのマークを入力して、なんてことを色々とやっていると、残り20分程になっていた。
ここまでで、あとどのくらい謎が残っているんだろうか。
見ていない所や今持っている物を考えても、半分は間違いなく終わっている。
最初に一通り部屋も探していたし、おそらく順調と言えるはずだ。
クリア出来る可能性は十分にある、そんな事を思っているとまたモニターにマスク男が映った。
「まーた出てきた。どうせ何言ってるか分からないんだろうなあ…どうせ分かんないんでしょう、分かるなよ絶対分かるなよ。」
フリみたいにチラチラモニターを見ながら喋っていると、マスク男が話し始めた。
「〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜。」
「ですよね〜。そりゃそうですよね〜!」
どうせ何言ってるか分からないので、気にせず謎を解こうとすると、後ろで目隠しされていた人質の内1人が、縛られていたであろう手を解いて、目隠しを外してマスク男に体当たりして吹っ飛ばし、モニターに向かって叫んだ。
「@@@@@@@!!!@@@@@@@@!!!!!@@@!!!@@@@@!!!!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「@@@!!@@@@@@!!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「@@@@@@!!」
「〜〜〜〜〜〜!!!」
パァン!!!!ドサッ…
「〜〜〜〜〜〜〜〜。」
マスク男は消え、残り15分になったタイマーが映し出された。
「………。」
「いや何一つ分かんねえよ!!!マジで何一つ分かんねえんだよ!!!どっちも!!マスク男も人質の女も!!どっちも何語なんだよ!!!!何も分かんないままに撃たれて死んじゃったよあの人!!てかあの2人、多分違う言葉喋ってるのに何で通じ合ってるっぽいんだよ!!!」
「多分女も俺に何かアドバイスとかしてくれたと思うけど、全く分かんねえんだよ!!あそこまでしてくれたのに何にも伝わってないのめちゃくちゃ申し訳ねえし!!で、多分ヤバいと思ってマスク男も撃ったんだろうけど、1ミリも俺に残ってないのよ!!!そうなってくると俺がおかしいのかこれ!!!!どこなんだここは!!日本じゃないのかよ!!!」
長めにツッコんでしまって息を切らしていたのだが、実際に今人質が今1人殺されてしまった。いよいよマジであのマスク男は人を殺せる奴であるということがしっかりと分かってしまった。
きっと、時間内にクリアしないと本当にみんな殺されてしまう。
ふざけやがって、絶対にクリアしてやる。
あいつは、わざわざこんなゲームを仕掛けているんだから絶対に俺の様子だって監視したいだろう。それに定期的に俺に何か言いにきている。また絶対俺を煽りにくるはずだ。何とかしてあいつに一言言いたい。
そんなことを思っていると、目の前が急にファーンと光って禿げたヒゲモジャのじいさんが現れた。
何だ、こいつは。
この現れ方、もしかして神様とかか…と思っていると、おもむろに喋り出した。
「ワハヒハカヒラ…」
「え、なんて?」
「ワハヒハカヒラ…」
「え、ちょ、すみません、もう一度お願いします。」
「ザハラ、ワハヒハカヒラ…」
「……。お前滑舌悪すぎだろ!!!何だお前歯全部ペンチで引っこ抜いたんか!!おい!!!」
思わず頭を引っ叩いてパシーンと音が響いた。
「多分、多分だけどお前私は神だって言ってるよな!?」
じいさんは頷いた。
「やっぱそうかよ!!!ふざけやがって!!俺しかまともに日本語話せるやついねえのかここは!!今日は何も分かんねえよ何だこれまだ夢なんかおい!!」
「ホファエヒヒホフホウフョフヲアハエウ」
「え、え、え、なんて?」
「ホファエヒヒホフホウフョフヲアハエウ」
「いや、待てこいつただの歯なしクソ滑舌野郎なだけで日本語喋っているから、考えれば分かるぞ…。ひょっとしてお前に一つ能力を与えるって言ってるか?」
じいさんは頷く。
「何だよこの二度手間!ここへ来て日本語なのに何言ってるか分かんねえの余計イライラするわ!まあいいや、そしたらよぉ、あのマスク野郎が何言ってるか分かるようにしてくれ、ついで喋れるようにも。」
「ホヘラホ、フハフハンシャカ…。」
「ああああああもううるせえ!!!」
またパシーンと部屋に音が響いた。
「今のは大体分かったわ!!!めんどくせえから早くやってくれ、お前のクソ滑舌聞き取るのにめちゃくちゃ時間かかってるんだよ!!」
タイマーはもう残り10分を切っていた。
「シハハハイ…。」
じいさんは俺の胸に手を当てて、フンッと言った。
「これでもうお主は奴の言葉が聞き取れるはずだ…では。」
そう言って、じいさんは光とともに消えていった。
「あ、おいてめえ普通に喋れるんじゃねえか!!クソが!!!あいつほんとに神様かよめちゃくちゃ性格悪いじゃねえかよ!!!ってやべえ、こんなこと言ってる場合じゃねえ。」
そう、時間はあと10分しかないのだ。
変な機械に透明な玉を入れてスイッチを入れて光ったところを消していくパズルのようなものを終わらせて、コインを入手したところで残り5分になっていた。
ここでまたモニターにマスクの男が映る。
「残り5分になったが調子はどうかな?」
「おいおい…とうとう分かるようになったぜ変態マスク野郎…。お前も聞こえてんだろ?」
「貴様…モギラ語分かってたのか…?」
「合ってんのかよ!モギラ語!!いや、もうそんな時間もねえ。何でこんな事やってんのか、クリアしてお前のとこ言って聞いてやる。だが一つだけ確認させてくれ。さっき俺が何か言って爆笑してたよな、アレはなんでだ?」
「ああ、あれはなお前が急に怒った顔しながら俺の昨日の夕食はでっかいウンコだって言うから思わずな…プッ…クククッ…ハーッハッハッハ!!」
「うるせえ!!!一つ勉強になったわ!!!!」
「ではあと3分せいぜい頑張りたまえ。」
マスク男がモニターから消え、残り3分のタイマーが映る。
今ならわかる、ナニゴナンダヨコレはモギラ語で昨日の夕食はでっかいウンコ、だ。二度と使う事はないが。
そして、残りは最初に取った変な窪みの箱とコイン2枚だ。この箱にある細長い穴にコインを入れてみると重さでなのか、窪みの形が変わりもう一枚のコインがピッタリハマるサイズになった。
どうなっているのかさっぱり分からないが、それもこれも後で聞けばいい。
俺は、コインを嵌めた。
すると、箱がパカっと開き中から一枚の折り畳まれた紙が出てきた。
今まで手に入れてきたものは全て使い切っているし、きっとこの紙にドアに入力する数字が書いてあるのだろう、そうでなくてもこれが最後の謎のはずだ。
残り時間は後1分。
頼む。数字よ、書いてあってくれと念じながら紙を開くと、数字ではなくおそらくではあるがあのマスク男を考えるとモギラ語文字と、クロスワードパズルのようなマス目が描かれている。
俺は、神様をしばいて頼んだ二つのお願いをふいに思い出していた。
「な、何て書いてあるか分からねえ…。」
Unfamiliar room ボラギノール上人 @shiki1409
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