第2話

「誰だ……?」

 

 青年が聞いてくる。頭や口から血を流し、服は血と泥で汚れきりズタボロになっていて、左手に握っていた剣は魔獣の血で真っ赤に染まっている。

 

 騎士でもないただの青年が、剣一本で魔獣に対抗したんだ……

 

「……凄いね、君は」

「え……?」

 

 青年の頭を撫で、魔獣に向き直る。稲妻での目くらましから復活したようで、殺気に溢れた瞳で睨みつけてくる。傷口を魔素で覆って再生する……魔獣の基礎能力でしかないな。魔素の色は緑で、全身の毛が雨風に逆らった方向に靡いている、という事は風の属性を持っているのか。

 

 魔獣が吠え、私に向けて走ってくる。後ろに青年がいるから避ける訳にはいかない。それに、これを使い過ぎるのも良くない・・・・しね。

 右手に魔素を集める。魔素が集まった右手が赤色に光る。右手で空中をなぞる。私の指の動きに合わせて空中に陣が浮かび上がっていく。

 赤い魔導陣が出来上がり、そこから火の塊が放たれる。

 

「火が空中に……!?」

 

 おぉ、反応が新鮮だ。

 

 魔獣は火に反応するも避ける事が出来ずに直撃し、魔獣の全身が火に包まれていく。

 魔獣は悲鳴を上げると地面を転がり火を消そうとしている。これは……うん、仕留めれないね。

 

「ねぇ、逃げるよ」

「あ、えっ」

 

 本をしまって、青年の手を取り立ち上がらせる。全身痛むだろうけど頑張ってもらわないと。

 青年に方を貸しながら、私は魔獣とは正反対の森の中へと逃げ込んでいった。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

「アクシア! どうしたんだその怪我は!?」

「ちょっと色々あって……」

「色々ってお前……それに、そこのお嬢さんは……」

「命の恩人です」

「いや、確かにそうだけど……」

「取り敢えず傷の手当をするぞ。お嬢さん、ここまでアクシアを連れて来てくれてありがとな。すぐ向かいの建物が宿屋になっているから、そこで暖を取ってくれ。こいつの手当が済んだらお嬢さんにも話を聞いていいか?」

「えぇ、別に構いません」

 

 

 そんなこんなで私は今ホットミルク片手に待ちぼうけになっている。

 

 

 ここはナーナ村。アクシアと呼ばれた青年が住んでいる村で、名産品はミルクとアップルパイらしい。確かに絶品だった。焼き立てアツアツで、リンゴの甘みを焼いたパイ生地のサクフワ食感が引き立てていた。明日も食べよう。

 

 しかしまぁ、酷い雨だった。着ていたローブは勿論、下着までびしょ濡れになってしまった。ここの宿屋には珍しい事に桶風呂が付いていたのでお借りしてさっぱり洗い流させてもらったが。しかも宿屋の女主人さんが寝間着にと服まで貸してくれた。濡れたローブや服、下着は洗って乾かしてくれるなど……滅茶苦茶高待遇だこの宿屋。着替え自体はあるのだが……せっかく貸してくれたのだ、こっちに着替えよう。

 

 先程まで着ていた替えの服を脱いで寝間着のシャツに腕を通す。サイズぴったりだ。

 ズボンを履き、部屋に置いてあった鏡の前で1回転。ふむ、薄い黄色にピンクの花柄、随分可愛らしいな。もう使っていない古着だと言っていたが、誰が着ていたのだろう……

 

「ごめん、今時間いい……か……」

「あ」

 

 がちゃり、と音を立てて扉が開き、先程助けた青年が入ってくる。私はパジャマ姿で仁王立ち。

 

 

 

 ただし、前のボタンを全部外した状態で、だ。

 

 

 

「あっわわわっあ、ご、ごめん!」

「あー……」

 

 

 

 顔を真っ赤にして出ていく青年。私自身は見られても減るものはないのだが、ああも初心な反応されると流石に恥ずかしいな……

 

「……すまない、寝るときは前を空けておくのが癖でね、人が来ることを考慮していなかった。少し待ってくれ」

「うぇあっ!? ぜっぜぜぜ全然急がなくていいから! ゆっくりでいいからさ!」

「お、おう……」

 

 い、勢いが凄い。扉越しでこんなに声が聞こえるんだ。怒られるのでは? 案の定宿屋の主人の怒声と、青年が謝る声が聞こえてきた。

 

 うん、申し訳ない。

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最弱魔導士の冒険記〜最弱魔導士と失われし魔導書〜 如月二十一 @goodponzu2525

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