15.双子と別れて、それから
双子の姉妹、シルトさんとリラさんとの顔合わせも終わり、僕たちは早々に退室する運びになった。
二人がいた部屋を離れ、他に用事の無い僕たちはエントランスへと向かっていく。
ここは商業組織ムーンティアーズの支店の一つ。
白色を基調とした石と
十二の強力な種族の内、芸術に秀でた
歩く最中、考えてしまうのはシルトさんとリラさんの事。
建築に絵画、音楽や陶器など。
目に見えて凄いと分かるものだけが芸術だとは思わないが、対面したあの二人――特にリラさんからは、そんな印象が皆無だ。
体の柔軟性を生かして、踊りをするシルトさんは想像できる。
けれども内気なリラさんは、果たして何を行う人なのか。
浅い理解しかないが、アイドルヘの疑問は底を見せない。
「あの二人が祭典で何をやるのか、気になるみたいですね。コウさん」
「凄いです。よく分かりましたね」
胸中を言い当てたシンクさんに、僕は感嘆の意を示す。
顔に出ていたのかなと頬に手を当てていると、シンクさんは肩を
「これでも
話しているのは僕とシンクさんだが、いつの間にかローエンさんもソフィアさんも、僕たちの会話へと耳を傾ける。
「
「んな持ち上げて大丈夫かよ、シンク」
「実際難しいからな。使われる
「
「十中八九、シルト殿の
シンクさんの話を聞き、僕とローエンさんが思い浮かべるのは、数日間一緒に練習してきた、シルトさんの
それは先日の三時間に及ぶシルトさんの話の中にもあった。
感情の糸を、思いを誰かと繋ぎ合わせる能力。
それが彼女の力の正体だ。
それを人の集まる当日で使うこと、それが悪用では無いこと。
どちらも容易に想像ができる。
他にも妹のリラさんの能力も話していたが、すぐ別の話に逸れてしまった為、具体的な事は何も知らない。
「当日は二人のパフォーマンスを見れるように調整するけど、警護の仕事を忘れないでくれると助かる」
「今の話からすると難しい注文だな」
「アタシは興味ねぇけど。コウ、オマエは?」
「僕はあります。ですので何事も起きて欲しくないですね」
シルトさんの練習の成果を見れるというなら、沸き上がる好奇心に嘘はない。
だけど興味があると言った事が意外だったのか、目を見張るソフィアさんに、僕はどうしたんだろうと首を捻る。
「……まあいいや。おいシンク。こっからどうすんだ? 顔合わせっつって連れてこられたが、まだなんかあんのか」
ソフィアさんの表情の意味が分からぬまま、エントランスへ着いた僕たち。
まだ行く場所があるのかと彼女がシンクさんへ問いかけると、返答は思いの外早かった。
「いや。ここで解散して大丈夫だ。皆さん、お時間を頂き有り難うございます」
「ふむ、そうか。……ではシンク殿。良かったらこのまま一緒に、昼食などどうだろうか?」
「有り難い申し出ですが、済みません。俺、これからここの支部長に挨拶をしないといけなくて。またの機会があれば、是非」
「んなもん、すぐ終わんだろ」
「そう都合よく事が進まないのが、公的な仕事なんだよ。ソフィア」
そう言ってシンクさんは、駆け足気味にエントランスから姿を消す。
先日も警護の仕事を持ってきた時、彼はのんびりお茶をする暇も無く、今と同じように家を出たらしい。
多忙を極める彼の仕事を、少しでも手伝えないのか。
そんな考えが僕の脳裏に過ぎるけれども、恐らく警護の手伝い以上の出来る事は無いだろう。
「気にすんな、コウ。
「……シンクさんも、ソフィアさんも。僕の考えがよく分かりますね」
「はっ。今のはアタシらで無くても分かるっつうの。なあオッサン」
「私は二人ほど確信を得られる訳では無いが、何かとコウ殿の反応は正直だからな。推測は立てられる」
全員過程は違えど、至る結論は同じだったらしい。
僕が分かりやすい方なのか、それとも彼らの観察眼が優れているのか。
「アタシとシンク相手にすんなら、まずその腑抜けた顔から何とかしねえと無駄だぞ」
「ずっと思っていましたけど。ソフィアさんの右目、いったいどうなっているんですか?」
「確かに。
二カ月前から、自身の事を語りたがらない彼女には幾つも疑問がある。
その中でも最も大きいものが、彼女の右目に宿った龍の力。
疑似的な再現か、それとも本物なのか。
その答えはあっさりと告げられた。
「ああ、これは貰いもんだ。親の恩人が
「私がスクリュードとしてた契約。それに
「ハッ! それよか上等だよ。アタシなりの
世界に君臨する絶対種の瞳。
シンクさんと対峙している時点ですでに遅いのだが、下手な言動を取ると心の底まで見透かされる気がしてしまう。
「……あー、そのだな。アタシだって
「そ、そうですよね。
ソフィアさんの言う本気の状態は、きっと二カ月前の事件の時みたく、右目の周りに刻印が出ている時だろう。
普段はその名残で視力が上がっている、その程度の筈だと僕は安心と共に息を漏らした。
どうしてだろう。
嫌な汗が背中を伝う、心が怯えて心臓が跳ねる。
彼女に嘘をついてる訳でも無いのに、僕の魂は焦りを感じていた。
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